並盛の神様2

 

 並盛の神である雲雀と黒曜の神である凪とが戦いに明け暮れたのは、遥か昔のことである。
 当世、死人をよみがえらせる反魂の法なぞ信じる者は少なく、死者を黄泉から引き戻す神である凪
の威信は地に落ちたに等しい。凪の神の名は、人々から忘れ去られて久しかった。
 その一方で、いつの世にも人が死なぬ日は無いので、死者を黄泉にいざなう神である雲雀の威力
は、衰えることを知らない。

 2柱の神の力量の差が歴然とした頃より、雲雀はしばしば人の子の姿に変幻するようになった。神
といえども、塵芥たる分子の集合体にすぎない人の肉に宿れば、力は制限され消耗を余儀なくされ
る。しかし、それでも彼が人の子の姿をまとい続けているのは、唯一の娯楽だった戦の敵を失い、永
久に続く退屈に飽いていたからであった。

 その長い永い無聊の時に別れを告げることができたのは、赤ん坊ことリボーンや沢田綱吉らの草食
動物の群れとの出会いがあったからだが、並盛に異国の澱み穢れをもたらす彼らに、親しみなど湧き
起ろうはずもない。
 ことに、獄寺隼人は並中の風紀を乱すことにかけては群を抜き、雲雀は事あるごとに制裁を下して
きた。


 そのはずなのに。

「・・・・・・・あの毛がはねてるとこ、可愛いな。」

 暇さえあれば見つめてしまうのは何故だろう?
 自分のものにしてしまいたいと思うのはどうしてだろう?

 人の子の寿命なんてあまりに短くて、100年もしないうちに消えてしまう泡沫なのに。

「・・・・・・・身も心も命も、あの子の全部を手に入れてから考えればいいか。」


  
 風紀委員をはじめとする並中生が次々に襲われ、歯を抜かれて発見されたのは、夏祭りの夜から
間もない残暑の頃だった。

「ヒバリさん敵やっつけに行ったって!」
「ヒバリさんは無敵だぜ!!これで安心だ」
「ヒバリさんと同じ中学でよかったー!!」
「あとは頼みます!神様!ヒバリ様!!」

 そんな他力本願な祈念などはなから気にもかけなかったが、並盛を荒らして、眷属たる風紀委員に
危害を加える輩を、雲雀が野放しにしておけるはずがない。

 雲雀は敵の気配を察知して、黒曜ヘルシーランドに赴き数多のザコをドン・ドン・ドンと咬み殺しまくっ
た。大した手ごたえは無いが、数が多いのに比例して流れる血の多さに気分が高揚する。



 確かに油断はあった。
 人の子の姿に身をやつしているとはいえ、神たる自分と対等の力を奮う者の存在など思いも寄らな
かった。

「君レベルの男は何人も見てきたし幾度も葬ってきた・・・・・・地獄のような場所でね」

 六道骸というオッド・アイの男を一目見た時に、気づけば良かったと後から思う。黄泉から引き戻す
神、凪の力を、骸がその身に取り込んでいることを。骸はただ偶然に黒曜の地を踏んだのではなかっ
た。


 黒曜に流れる気脈は雲雀の持つ気と相反する性質を有するため、閉じ込められた地下室で安静に
していても、回復ははかばかしくなかった。
 そんな時、雲雀が鳥に並中校歌を教えていたのは、暇つぶしのためではない。「黒曜」に対立する
「並盛」を音として響かせることで、停滞する自らの気力に流れを取り戻そうという意図があったのだ。

 チュン。
 コンクリートに座って回復を待つ雲雀の頭の上で小鳥が遊ぶ。鳥獣は人より神の気に聡い。

 そんな時。
「うがああァ!」
 あの子の叫び声が聞こえた。

(失敗した。神でも人でもある骸の眷属には、守護印くらいでは足りなかった。)

「ヤラレタ!ヤラレタ!」
 小鳥は雲雀に獄寺の状況を伝達し、歌った。
「緑たなびく並盛の― 大なく小なく並がいい―」

 そして、獄寺が投げるというよりも転がすに近い状態で放ったダイナマイトによって壁が爆破される。

 爆煙に霞む中、雲雀は階段にさかしまに倒れる獄寺を見た。
 その胸を染める血の色に、目もくらむような怒りが湧き溢れる。

「そこの2匹は僕にくれるの?」

(ムカつくあいつら。僕のものを勝手に痛めつけて。) 


「じゃあこのザコ2匹はいただくよ」 
「好きにしやがれ」

(君から初めてのプレゼントだね。嬉しいな。)

 

 

 

2009/04/08

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