並盛の神様3

 

 黒曜戦は、リング争奪戦以降の状況に比べれば、まだましだったのだ。


 沢田の父親の家光とかいう男は、詰めが甘いのかわざとなのか、肝心なところがおかしい。
 対立しあう性質を持つ雲雀の神と凪の神とを、一つのボンゴレという籠の中に入れて、互いの力を
相殺してしまった。

 雲雀にとって忌々しいことに、雲雀が人の子の姿をとる際、その能力が常人程度に限定されるのに
対して、骸は神の力を多少なりとも振るうことができた。刻々と死に向かいつつある骸と凪の肉体を、
常に黄泉から引き戻し続けているのだ。

 雲雀より格下の神である凪に何故そんなことができるのかと考えてみれば、凪と骸の相性が良かっ
たとしか言えない。

 凪の神の力があまりに衰弱したため人の子への転生を余儀なくされていたところを、まず神の力を
骸が吸収し、そののち人の子としての心で同調し、肉体で同調して、絡み合って癒着してひとつにな
っている。そもそも、凪は虐げられた子どもたちの神であった。

 クローム髑髏自身に、かつて自分が凪の神であったという意識は無いらしいのに、その存在自体が
雲雀の神の力を制限する。とんだ落とし穴だった。

 そして未だに、落とし穴から抜け出せないでいる。



「雲雀さん、ベルフェゴールを咬み殺しに行ったのって、獄寺君のリベンジですか?」

 沢田は本当に食えない男だ。
 リング戦後、元通りに修復された廊下で、すれ違いさまに訊かれた。

 この沢田や赤ん坊らと金輪際関わらないと決めて、人の子の姿を捨ててしまえば、力を制限される
ことなどないというのに。

「そうだと言ったら?」

 雲雀は、獄寺隼人が気になるあまり、雲雀恭弥という一中学生という存在であることを、止められな
いでいるのだ。
 それは、執着。愛着。
 骸と凪の間の、癒着ほどまで粘度は高くはない。
 ただ一方的な想いがあるだけなのに。


「・・・・・前途多難ですね。雲雀サマ。」

 沢田は超直感とやらで、雲雀が本当に並盛の神であることに気づいているらしい。

「獄寺君が大人になっても雲雀サマは中学生のままだし、並盛から離れれば離れるほど雲雀サマは
衰弱しちゃうし、」
 
「10代目えー、そこにおいででしたかー。げえっ、雲雀!今すぐ行きます!」

 向かいの校舎の窓から、手を振る獄寺が見える。

「獄寺君はオレの方が大事だし、」

 雲雀はトンファーでツナの腹を打った。
 ツナは廊下にへたりこむ。

「・・・・いてて。容赦ないですよね。」

「僕が弱れば、困るのは君もじゃないの?」

 ツナは雲雀の指に雲のリングが光るのを見る。

「・・・・・・・・応援しますよ、雲雀さん。」

「フン。」

 雲雀が踵を返して歩み去ると、ツナは埃を払いながら立ちあがった。  

「このヤロー、雲雀め!10代目に何しやがったっ!」

 全速力で駆けてくる獄寺の前で、ツナは大きく手を開いた。

「世間話してただけだよ。獄寺君。」



(世間話じゃないな。
 とても不器用な神様のコイバナだな。)

 

 

 

2009/04/09

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