草食動物行進曲

 

 15日の放課後。
 並盛中学校の応接室前の廊下。
 ツナの補習が終わるまでの時間つぶしに、獄寺は雲雀をからかうことにした。
 他にも弱みを見つけておけば、後々利用できるだろう。
 これも10代目のため。
 獄寺は昨日の至近距離で見上げた、ほぼ静止画像だった雲雀の顔を思い出す。
(ぷ。あいつ焦ると瞳孔が収縮する。)
 誰でもそうかもしれないけれど。
 口止め料も、もらっておかないともったいない。

「ヒバリ、いるか?」
 今日も許可なく入って来た草食動物に、デスクについていた雲雀は冷えた視線を送る。
 もうその部屋に、甘い香りはひとかけらも残っていない。
「入ってこないでよ。群れる気はないって、言ってあったよね。」
 窓の外、2月の冷気にも劣らない低温を放射する。
「用事があるのさ。昨日の口止め料がまだだ。」
 獄寺はデスクの前まで来て、はいと両手を差し出した。

「・・・・・?」

 獄寺の手の上には、国民的ほのぼのスナック菓子、コアラのマーチが一箱。

 もらう方が差し出したら口止め料ではないし。
 そしてそれは、一日遅れであるけれど、まがりなりにもチョコレート菓子。

 ふわん。

 薄甘い空気の気配に、雲雀の神経組織の細胞が、音高く危険信号を響かせる。

 ふわ。

「どういうつもり?」

 獄寺の笑顔がいやに近い。
 吐息さえ聞こえそうなほど。

 ふわ。

 座ったままの雲雀の目を、緑の目が覗きこむように見下ろすのが息苦しい。
 だけどそれは恐らく、先に目を反らした方が負けのゲーム。

 ふわん。
 ふわ。

「今、オレの目の前で食ってくれたら、口止め料はチャラ。」

 ふわ?

「存分に草食動物、咬み殺せ。」

 ぷちっ。甘い空気が霧散して
 ぼこっ。コアラのマーチが潰される。

 言うが早いか腰を落とした獄寺は、デスクを盾にトンファー攻撃を間一髪、かわした。

「さっさと出て行ってよ!」

 すでにドアを開けている獄寺が振り返る。

「じゃ、次の貸しってことで!」

 菓子だけに。


 


2009/02/15

 獄が持っていったコアラのマーチは買ったものではなく、前日にわけてもらったものです。

 


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