初恋フリスクミント

 

 本日、3月13日。
 しばらくダイナマイトの調達に出ていた獄寺は、昨夜遅くイタリアから帰ってきた。
 ふわわ。
 あくびに手をあててみても、眠気は指の間からいくらもはみ出してきておさまらない。10代目に会い
たさに登校してはみたけれど、時差ボケだからしかたない。

 獄寺は授業を抜け出し保健室へ向かった。
 扉に手をかけて思いつく。
 また久しぶりに、雲雀をからかってみるのもいいかも。

「ひいるね。ひるね。」



 校舎内の見回りを終えて雲雀が応接室へ戻ると、獄寺がソファーの端っこで体を丸めて寝ていた。

「なにこれ。」

 実は雲雀も眠かった。ソファで昼寝がしたかった。

 ここ数日、雲雀は夜も寝つけないほど苦悩していたのだ。
 貸し付けられた菓子を早く獄寺に返してしまわないと、まるでホワイトデーのプレゼントになってしま
うというのに、獄寺がどこにも見当たらない。
 獄寺がいなければ菓子は返せない。

 困る。困るよ。

 しかし、実のところ、獄寺の顔が見られないことが苦しくて、いつ菓子を返すかを悩んでいることは自
分自身もわかっていて、寝苦しい夜が続いていた。


「とにかく先に返しておこう。」
 雲雀は獄寺の鼻を摘まんで、口を開けさせてフリスクほぼ一箱分を投げ込んだ。
 眠気覚ましにと初めて買ってはみたが雲雀の好みにあわず、ポケットに入りっぱなしになっていたも
の。

「すー。」
 驚くべきことに、獄寺はそれでも目覚めなかった。
 たぬき寝入りでもしているのではないかと疑って、雲雀はまじまじと獄寺の顔を見る。
 透明な産毛が光る頬のラインの下、薄く開いた唇の間に、ミントのタブが香っている。
 
 もしも起きていたら、こんなイタリアの中世の宗教画のそこここで羽をはやして飛んでいる、裸んぼの
子どもみたいな顔ができるわけがない。

 どっくん。どくん。
 鼓動が走る。
 駆ける。
 疾走する。 

 獄寺を叩き起して追い払って、ソファを取り返すと同時に、心の平安と安眠を取り戻すという選択肢
だって有るけれど。

「いいやもう。」

 雲雀はソファの獄寺の反対側に座って、体を丸めた。
 なんとか体はおさまるが、足と足はぶつかってしまう。
 それでも獄寺は起きない。

「諦める。」

 雲雀は目を閉じて心の中で手をあげる。

 降参。白旗。

 いつ返すかなんて問題じゃなかった。



 
 



2009/03/13

 

 

 

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