カボチャ畑で捕まえて 2

 10月31日の夜、風紀委員会のカボチャ畑に、煌々たるサーチライトを照射されて銀髪の狼男の姿が浮かび上がった。
「鬼ごっこは終わりか。」
 両手を上げて戦意がないことを示すと、千葉県舞浜周辺で売っているネズミのカチューシャをつけた風紀委員がわらわら走り寄って来て、瞬く間に十字架に結わいつけられてしまった。
「なんだこれ、案山子か?おい、何時までこうしていればいいんだ?」
「次の案山子が来るまでだ。」
 風紀委員はそう言うと塹壕に身を隠したが、丸い耳とリーゼントの先が時折ひょこひょこのぞいている。
「なるほど。自由になりたければ協力しろということか。合理的なルールかもしれねえが。」
 合図があるまでは、風紀委員会に身柄を拘束された状態でいる約束だ。次に案山子にされる者が捕まえられないよう、場をコントロール必要がある。
 狼男もとい獄寺に化けた上で狼耳と尻尾をつけたGは、畑に実るオバケカボチャを眺めた。嵐の守護者の後継者、可愛い隼人の頼みだからこんなお遊びにつきあっているが、もちろん交換条件はある。
「だが、あんなものを欲しがるとは、隼人もまだまだ子どもだな。」

「獄寺隼人が捕まったんですか?」
 並盛ハロウィン・パレード実行委員会本部テントで草壁からの報告を受けたのは、吸血鬼の仮装をした風だった。
「ずいぶんあっけなかったですね。」
 ハロウィンの魔法か幻術か、今日は大人サイズになって風紀の腕章をつけている。雲雀の代わりに終始にこやかに采配を振るっているけれど、しばしばくどくど細かい注意や指示をするものだから、委員達は近くに寄りつかない。
「ふうん。恭弥が戻るまで、着せ替えさせて遊びたいな。」
 テントの隅では金髪の吸血鬼がワイングラスを傾けていた。
「連れてきてよ。」
 アラウディはカボチャのチップスをつまみながらクランベリージュースを飲むばかり。チップスを地面にこぼすのはやめましょう掃除をされる委員の皆さんの気持ちも考えなくてはいけません、テーブルにジュースの輪染みを残したら後で書類を置いた時に汚してしまうかもしれませんよと、風にちくちく言われ続けて奥の方に押しやられている。
「それはなりません。次に他の人が捕らえられるまで畑に留め置かれるルールです。草壁副委員長も困っているではありませんか。」
 アラウディはグラスを置くと、あふっとあくびを一つした。
「じゃあ僕は帰る。お休み。」
 アラウディはテントを出た。雲の守護者の後継者、可愛い恭弥の頼みだから代役を務めに来てみたら、偶然通りがかったもう一人のそっくりさんが草壁の勘違いで呼び止められ頼まれて、俄然やる気になっていた。
「畑まで隼人を見に行こうかな。」

「髪、立たせ過ぎ。」
 雲雀は応接室の窓ガラスを鏡代わりに、己の姿を確かめていた。アラウディに代役を依頼した交換条件は、深夜放送の近未来SF刑事物アニメの主人公のコスをすることだった。底のぶ厚いシューズや妙な形状のモデルガンも持たされている。
「君が着ればいいじゃない。」
 雲雀がそう言うと、アラウディは首を横に振った。
「Gは僕に似ているからこのキャラクターのコスプレを見たいと言うけど、Gは僕がこの髪の色を染めたり隠したりして変えるのを嫌うから。」
 ムッカー。
「惚気られた?」
 思い出しムカつきにしばし身悶えてから、雲雀は立ち上がった。せっかく作った時間を有効利用して、年に一度のこのハロウィンの夜の間に獄寺に色んな仮装をさせてやる。
ちょうどその時、草壁から獄寺を捕らえたという連絡が入った。


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