カボチャ畑で捕まえて 3

 カボチャ畑の端っこで十字架に括りつけられ自由を奪われていながらにして、Gはその場を訪れる者みなすべてを舌先三寸で操っていた。
「おい、風紀委員。あの木の影になんかいるぜ。」
「そこのカボチャ泥棒。あの穴ん中に風紀委員が隠れてるから注意して行けよ。」
 風紀委員も泥棒達もGの言葉一つで右へ左へ動いてくれる。だから獄寺がオバケカボチャを盗み出し合図を送って寄越すまで、何の苦もなく身代わりを務めていられるはずだったのだが。
「別人じゃない。」
「何でそんなことになっているの。」
 忙しいはずの雲雀と何故だかアラウディがやって来て、ばっきばきに案山子をぶっ壊してGを解放してくれてしまった。
「あーあ。隼人スマン。」
 風紀委員の注意を引きつけ雲雀の油断を招く予定だったGが戦線を離脱したら、獄寺が苦戦を強いられるのは必須だろう。
「帰るよ。」
 けれどもそう恋人に手を引かれれば現金なもので、Gはさっさと自身の姿に戻って、ついでに狼耳と尻尾をふっさりふさふさ紅くした。
「あ。帰る前に恭弥の格好を見て。」
「ん。でもお前の吸血鬼の方がイカス。」
 金髪の吸血鬼と紅毛の狼男がベタベタじゃれつつ去って行くのを見せつけられた後、残された雲雀は妙に疲れていた。直径5m、高さ2mのオバケカボチャに、ぐったりと寄りかかる。
「まだ獄寺の猫耳もアリスもミイラも魔女も見てないのに。」
 風がアラウディの代わりに委員長役を演じてくれているとはつゆ知らず、雲雀はぐじぐじいじけていた。獄寺の仮装姿を見るどころかどこにいるのかもわからずじまいで自由時間が終わってしまった。昼間ならこんな時には唄って慰め気分を盛り上げてくれるヒバードも、鳥目だから就寝中だ。
「・・・本部に戻らないと。」
 ようやく雲雀が立ち上がった時、突如として一台の馬車が近づいて来た。
 ぱからんぱからん。
 ハロウィン・パレードの出し物にこんな大掛かりなもの許可したかなと記憶を辿るうちに、カボチャ形の馬車を引くのは馬ではなく巨大な嵐豹であることに気がついた。
「わっ、雲雀!」
 獄寺の声が耳に届けばしゃんとして、雲雀は豹の前に立ちはだかる。
「オバケカボチャとその馬車を入れ替える作戦だった?残念だったね、獄寺隼人。さあ出ておいでよ。」
 手をのばして豹の額と鼻先を撫でてやるとすぐにゴロゴロ喉を鳴らし、瞬く間に子猫サイズに戻った瓜は雲雀の肩に飛び移って甘えた。

「Gめ、話が違うじゃねえか!」
 馬車の中の獄寺は交換条件としてGに指定された仮装をしていて、外に出れない出たくない。ガラスの靴もドレスもティアラも、魔法が解けてくれる気配などない本物だ。
「くそっ」
 獄寺が腹立ち紛れにぽいぽい衣装を脱ぎ捨て終わってすっぽんぽんになった時、痺れを切らした雲雀が扉を叩き開けた。
「ぶっ」
 カボチャ泥棒の現行犯で捕縛されるかと思いきや、雲雀はいきなり鼻血を噴き出し昏倒してしまった。
「・・・なんか知らないけど、とりあえず休め。」
 獄寺は膝枕に雲雀の頭を乗せて、鼻を摘まんでやりながら考える。
(雲雀も過労で倒れるぐらい、ハロウィンって怖い祭りなんだな。)



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