屈折プリンアラモード

 

 獄寺が昼寝から覚めると身体が妙に重かった。ことに下半身が重苦しい。
 不審に思いつつ上半身を起した獄寺は、喉の奥で小さく叫んだ。

「げっ。」
 獄寺の足の上に、雲雀の足が載っていた。
 もちろん足ばかりでなく、ソファの向こうの端を頭にして体を丸めて眠る雲雀の本体がそこにある。

「なんだこれ。」
 応接室のソファの上で昼寝を決め込んだのは記憶どおり。
 しかし、雲雀とひとつソファのスペースを分かちあって、仲良くおねんねした記憶なぞない。

「重めえ。狭めえ。」
 その上、口の中がスースーしている。なんだこりゃ。歯磨き粉の味?
 獄寺が雲雀の足から逃れようと身じろぎすると、雲雀が頭を振るのが見えた。目を覚ましたのだ。

「おはよう。」
 雲雀は猫が伸びをするように一度体を丸めそして伸ばして、次の瞬間には腕章を揺らしてトンと床に
立っていた。

「お帰り。獄寺隼人。」
 たった今まで体を縮こませて眠っていたとは思えない、風紀委員長がそこにはいた。

「・・・おう。」
 まだソファに体を横たえたままの獄寺は、雲雀の見事な変貌振りに勢いを削がれた。

「獄寺隼人。僕にイタリア土産はあるの?」
 雲雀が獄寺を見下ろして話しかけてくる。
「ねえ?」

 鼠を前にして、食べようかもてあそぼうか考えている、猫みたいな顔をしやがって、と獄寺は思う。
 今日はやけに余裕じゃないか。

「無いよ。んなもん。」
 獄寺もソファから立ち上がった。見下ろされるのは気分が悪い。
 向かいあって立ってみても、若干雲雀の方が目の位置が高い。

「そう。それならその分で、この間借りた菓子は帳消しにしてもらおうかな?」
 雲雀は計算の上で疑問符を打つ。

「ふん。そんなの計算があわねえ。菓子は返してもらうぜ。」
 獄寺はすんなり罠に引っかかる。

「いいよ。」
 無表情の雲雀の顔の中で、唯一瞳孔が収縮し拡張するのを、獄寺は見る。
 偉そうな態度のくせして、こいつ何か焦ってるんだろうか?

 開き直った雲雀の怖さを、獄寺はまだ知らない。
 何に開き直ったのかさえ、気づけていない。

「それなら行こうか。」
 雲雀は窓を開けた。

「はあ?」
 獄寺は窓のへりに足をかける雲雀を、あんぐりと口を開けてみている。

「ほら、おいで。」
 窓の外から雲雀が手招きする。
 一階の窓の外は、明るい早春の日差し。
 へえ、風紀委員長と一緒に、フケてみんのも面白いんじゃないか?

「よっ。」
 獄寺は窓を飛び越えた。



「フルーツあんみつ一つ、サクサクアップルパイのバニラアイスクリームのせ一つ。それと、フレッシュ
ストロベリーサワーを一つ。獄寺、君は?」

「ええと、一番高いのは、っと。よし、デラックス・チョコレート・プリンアラモード一つと、ドリンクバー。」

 所は、並盛中学からワンブロックと離れていないファミレス。
 菓子の代わりだから甘いもの限定で雲雀が御馳走してくれるというので、獄寺はのこのこついてき
た。
 御馳走うんぬんは抜きにしても、雲雀と一緒のサボリなら、制服着ていても注意も補導もされないん
だよなあと考え、獄寺はちょっと楽しくなる。


「いただきます。」
「よっし。食うぞ。」

 テーブルいっぱいのスウィーツの皿が空になった時、獄寺との間にまた菓子とか借りとかの関係を構築
するためには、何と言えばいいのか。
 雲雀は、獄寺のスプーンによって小さくなっていくプリンを見ながら考える。

「一口くれる、それ?」
 雲雀は返事を待たずにプリンの最後のかけらをスプーンで取って、口に運んだ。

「あっ!」
 獄寺が目を吊り上げる。
「返せ、それ!」

 なんだ、随分簡単だ。





2009/03/15

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