はるはなひいな9



「・・・・ち、違う?」

 頭の後ろで大声を発した雲雀の剣幕に圧倒されて、獄寺はおずおずと尋ねた。

「違うっ!」

 獄寺の肩を掴む雲雀の手に、一際力が込もった。
 爪が皮膚に食い込んでいる。
 明るいところで見たら、きっと両肩に手形の跡が残ってしまっていることだろう。
 それにしても、雲雀がハルを好きなわけじゃないのに、指輪に固執するということは。

「・・・なんだ。指輪で変身するってわかってんのか。」

(ワォ。自爆だ。)

 雲雀は吹き出しそうになるのを堪えた。
 獄寺本人が自爆したことに気づいていないのが、なお可笑しい。

「頼む!雲雀!誰にも言わないでくれ!バレたら、10代目と一緒に便所に行けなくなる!」
 
 しかし、折角の楽しい気分も、獄寺の発言であっという間に台無しにされた。


(何、そのジェンダー選択理由。沢田基準もいい加減にしろっ。)


 雲雀は獄寺の声や発言を聞く都度、怒ったり驚いたり変な気分になったり笑ったり呆れたりすること
に疲れを感じていた。

 思い返せば、獄寺のお陰で、感情の振れ幅の非常に広い一日だった。

 雲雀は獄寺の後頭部にコツンと額を当てて、ため息をついた。

「フー。」
「ひゃん。」

 うなじに雲雀の息を感じた獄寺から変な声があがって、先ほど抑え込んだ変な欲求がきざすのを感
じる。
 まるで、感情と感覚のフレッシュ・ミックスジュース状態。


「雲雀、お願い!オレ、10代目と一緒に風呂に入りたい!」

「もう君は喋らないでよ!」

 雲雀はイライラと獄寺の耳に向かって叫んだ。

 耳がキンキンしてしまった獄寺は、口を噤んで頭をコクコク縦に振る。


 雲雀は策略をめぐらす。
 不思議な指輪を外すと獄寺が女の子になると公言しても、雲雀に何の益ももたらさない。
 秘密にしてやるのは構わない。
 しかし、これほどの弱みを握った今、交換条件にはよっぽどのものを要求しなければならない。

(今日はひな祭り。ひな飾りって、嫁入り道具なんだっけ。)

「いいよ。秘密にしてあげる。そのかわり、」

(見つけた。この子をずうっと近くにおいて、遊び倒せる方法。)



 ザ、ザ、ザ。


「君には僕と婚約してもらう。」


 ザ、パーン。


「コ、コンヤクゥ?」


 獄寺は考えた。
 脳細胞を総動員して計算する。
 婚約。結婚の約束。
 約束であって、今、いきなり結婚するわけではない。
 だいたい、世間的には2人とも男だからして、結婚できるわけがない。
 まだまだ当分、結婚できる歳にもならない。

 もしかしたら、悪い条件ではないのかも。
 指輪を外しても女の子にならなくなったら、婚約破棄してしまえばいいんだし。
 計算終了。

 ザッパーン。


「・・・・・・はい。よろこんで!」



 策略と計算の上であるにしろ、これにてめでたく婚約成立。


End.

 

 



2009/04/20 

 




 






 

 

 

 

 

 

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