はるはなひいな6

 

 雲雀は獄寺の座るベンチへと向かってくる。

「ヒバリ!」

 獄寺は立ち上がって、額が膝につくほど深く頭を下げた。

「ごめん!」

 獄寺は雲雀の気配を間近に感じたが、恐ろしくて頭を上げることができない。
 どこから咬み殺されるんだ。
 うう、こんな人通りのある往来で醜態をさらすことになるとは。

「さっきの髪、やめたの?」

 雲雀の声に尖りはない。
 むしろ感情のこもらない平板な口調が、かえって寒気を誘う。

 雲雀が腰掛け、スチールのベンチがギイと軋む音が聞こえた。

「座りなよ。」

 命ぜられた言葉に従い、獄寺は雲雀の右隣に掛けた。

 腹の底まで凍りわたるような暗澹たる気配に、獄寺は下を向いたまま顔を上げられない。

「さっきの髪、ふわふわで長くて、君を引きずりまわすのに丁度よさそうなのに。残念だね。」

 恐ろしい。だけど咬み殺される前に、言っておかねば。

「ヒバリ、来てくれてありがとう!それでごめん!」

 ああ言えた。もう、咬み殺されたって構わないと獄寺は思う。

「顔をあげて。」

 雲雀の手が獄寺の肩をぐういっと掴む。

「まるで、僕が君をいじめているように見えるよ。」

 正面を向かされても、獄寺は隣に座る雲雀の顔をみることなどできない。
 咬み殺すなら、いっそはやくして欲しい。


「君、いつもしている指輪を三浦ハルにあげた?」

「へっ?」

 雲雀が口にした言葉が意外で、獄寺は雲雀の顔を見てしまった。

「指輪ってコレのことか?少し貸してたけど。」

 実際には取られたのだが、獄寺限定で魔法の指輪であることは絶対に知られたくないので嘘をつ
く。

 獄寺は左手を雲雀の前に差し出した。
 雲雀は薬指に嵌るその指輪を凝視する。

「ふうん。そうなんだ。」

 雲雀はそれだけ言うと口を噤んだ。


 獄寺は驚いていた。
 窓を開けて、ボカスカ物を投げつけられている間に、雲雀がそんなに細かい観察をしていたとは。
 その上、獄寺が普段から身につけている指輪まで、見覚えているということだ。


「・・・・・・・・指輪をあげる仲なのかと思った。」

 ぽつん。雲雀の言葉。

「へ?なんでオレがバカ女に。」

 獄寺は即座に否定した。


 雲雀は瞬きして目を見開き、獄寺の顔をみつめた。
 獄寺は蛇の前の蛙のように身動きできない。


 雲雀はふうと息を吐いてから言った。

「せっかくのお招きだし、これから雛祭をしてもらうよ。」
 
 雲雀が立つ。

「・・・・これから?」

 バスが来て止まる。降車の客はない。

「ほら、乗るよ。」

 2人を乗せるとバスは走りだした。。




 




2009/03/05

 

 

 

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