はるはなひいな2

 

「おい、その紙には落書きするな、アホ牛!」
 ハルが獄寺の指輪をしたまま沢田家を出て行った後、獄寺は再びランボとイーピンに折り紙を教え
ていた。

 ランボが言うことをきかないお子様なのはいつものことだから諦めもつくとして、普段は聞き分けの良
いイーピンまでもが獄寺の長い髪を触ってきたりして、はかどらない。
「*K’!*#$!」
 イーピンが獄寺の髪を一束引いて、つま先立ちで何かを言う。
 どうやら、ジェスチャーで獄寺に立てと言っている。
「立てって?」
 立った獄寺の前で、イーピンは初めに腰に重心を置いて外股で歩いて見せ、次に重心を高めで肩を
振らずに歩いて見せた。
「わかった。後の方が女っぽく見えるよな。」
 イーピンがこくんこくんと頷く。
「サンキュ。でもな、女になってんのは今日これきりだからさ。」
 髑髏もいるし、女性でも守護者はできるだろう。過去のボンゴレの右腕のうちにも女性はいたけれ
ど。

「女になんかなったら、もし10代目が男子校に行ったら一緒に通えないし、保健体育だって別になる
し、修学旅行じゃ別の部屋になるし、銭湯も一緒に行けないし、便所だって一緒にいけないし。」 

 イーピンは小さな口で溜息をつく。


 獄寺がのどかに子守を続けている訳は、ハルに『今日の16時から女の子だけで雛祭をするから、そ
れに参加すれば指輪を返す』と言われたため。

 今日は3月3日。桃の節句。
 獄寺の予定としても、今日は中国娘のイーピンに日本の雛祭を楽しんでもらうつもりで、マニュアル
片手に折り紙で雛飾りを作っていたのだ。
 あとはコンビニで買った雛あられ。それと、ダメもとでイーピンのためのスペシャルゲストに声をかけ
てはおいた。
 準備がお粗末なのは、奈々がいないからだった。なんでも、家光との結婚以来勘当同然だった奈々
の実家から、今朝突然に、姪の初節句の祝いに来いとの連絡が来たらしい。
 イーピンちゃんの節句の準備が、と後ろ髪引かれる奈々は背をツナに押されて出掛けていった。
 奈々の実家に興味をもったらしいリボーンも、そっちについていっている。

 ランボとイーピンしかいない沢田家から外へ出ないでいいのなら、この女の姿を誰にも目撃されない
ですむ。
 獄寺がハルの条件を二つ返事でのむと、ハルは準備をしてくる!と言って飛び出して行った。
 大方、雛祭にふさわしい料理か何かの準備をしに帰ったのだろうと獄寺は思う。
 その辺は自分にはカバーできない領域だからありがたい。
 
 ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。

「ハル?早かった・・・」
「チス。」

 そこには黒川花が立っていた。 

「ハルのダチのダチで、黒川って言うんだけど。あんた、ハルの家にホームステイしてる、鳩ちゃんだ
よね。ハルから話は聞いてる。上がるよ。」

 うわあ、なんで黒川が!
 あのバカ女、なんで人を呼んだりするんだ。なんだ、ホームステイって。なんだ鳩って。
 獄寺はうつむく。顔を見られたくない。ばれたくない。

 花は居間でランボを見つけて、一回しっしっをやってから、テーブルの上の折りかけの折り紙をちょっ
とのけて、黒い筒状のものを並べはじめた。
 ミニボム?まさか刺客か?!

「そこ座って。先に巻いとこう。」
 さっぱり意味がわからない。獄寺はまじまじと花の顔を見てしまう。
「あー、獄寺の腹違いの妹だってね。ホント、そっくりだわ。」

 あ、ばれてはいない。

「ほらその髪の毛、アップにするなら、巻いとかないと。」

 花は獄寺の肩を押して床に座らせると、手際よくホットカーラーで髪を巻きはじめた。
 武器じゃなく、こういう風に使うものだったのか。
 
「メイクはどんな感じにする?」
 メイク?何を作るんだ?

「あんたの彼氏はどんなタイプが好みなの?」
「か、か、かれしっ!?」

「えー、彼氏いないの?こんな可愛いのにい。」
「いいいねえっ!!」

 マニキュアされた花の手が後ろからまわされ、獄寺の頬をふわりと撫でる。
「なら、どんな男がタイプ?」
「お、おとこがたいぷぷぷぷ」
 花の指と言葉の戯れは、獄寺には刺激が強くて、対応できない。

「かあわいい。うぶだねえ。」
 背後で花がくつくつと笑うのが聞こえる。
 同じ年の女に、うぶと言われたのは悔しい。
 獄寺は、だって女じゃないんだから仕方ないだろうと叫びをあげたくなった。

「ごめんごめん。じゃあ、どんな風に化粧してほしい?」

 花の指先が、獄寺の唇の先をつんつんつつく。
 ここにきてやっと、獄寺は自分の運命を知った。
 そうか、女装をさせられるのか。
 いやに条件が良すぎると思ったら、そういうことか。

「おまかせでいいなら、エロかわ系にしとくよ。」
 獄寺の中で、その単語と自分が結びつけられずに、思考回路がショートする。
 イーピンが心配そうに、獄寺の目の前で手を振っているのが見える。

 イーピンだけだ、オレの味方は。良かった雲雀を呼んでおいて。

「良かねえ!!まずい!!」

 さすがに奴にはばれるだろう。守護者同士なんだし。

「いやだ?そんなら、きれい系orキュート系?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きれい系。」
 どっちでもかまわねえ。いっそ男らしくして化粧して欲しい。
 
 ああ、早く雲雀に電話して、絶対に来るなと言わなけりゃ。
 花にメイクをされ髪を結いあげられている間、獄寺はぐるぐるそればっかりを考えていた。

「よし。髪とメイクは完成。」

 だから、花が差し出した鏡をよく考えずにのぞきこんでしまったのだ。

「げっ。」

 暗転。




  

 

2009/03/02

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