はるはなひいな1

 

 ハルは可愛いものが大好きです。
 フリルのついたギンガムチェックのクッション。カップケーキの形のキャンドル。フルーツ柄のキャミソ
ールワンピ。
 元気で利発な赤ちゃん、リボーンちゃんが好き。
 ケーキやお菓子は味ももちろん大切だけれど、綺麗にデコレートされたその形自体が好き。
 純粋で無垢な、小さな子どもたちが好き。
 優しくて可愛い京子ちゃんが大好き。

 ハルが可愛いものが好きなのは、ハルには京子ちゃんみたいな絶対的な可愛らしさ、無敵の可愛
さが無いからです。
 ハルはあんまり可愛い女の子ではありません。残念ながら。
 だから、たくさんの可愛いものに囲まれて、可愛いものをぎゅーっと抱きしめて、可愛いエッセンスを
吸収して、可愛いものと一体になってしまいたいという欲望でドロドロなのです。
 欲望まみれって、可愛くなくて悲しいです。



「はわわ。何してるんですか、獄寺さん。」
 ハルが沢田家に遊びに行くと、既に獄寺がいて、ランボとイーピンに折り紙を教えていた。
 母と出掛けて留守にするから、子供たちの面倒を見ていて欲しいというツナの頼みだったのに。

「折り紙に決まってんだろ、バカ女。」
 獄寺はハルの顔も見ずに言う。
 そんなコト、訊いていませんよーだ。
 あなたがツナさんのお宅にいること自体が、何してるんですか、ですよーだ。
 ハルは心の中で舌を出す。
 ハルは獄寺が嫌いだ。
 乱暴だし、言葉は汚いし、小さな子どもたちを本気になって叱りつけるし。
 怒りっぽくって、顔立ちが整っているだけに凄みがあって、怖いから大嫌い。

「おい、コラ、指輪返せよ、バカ牛。」
 獄寺のきつい声が飛ぶ。
 折り紙を折るのに邪魔で、常時嵌めている指輪のほとんど全部を外して、テーブルの上に置いてあ
る。
 その一つを、ランボが自分の髪のモジャモジャの中に隠して遊んでいるらしかった。
「コラッ」
 獄寺がランボの頭に手を突っ込んで、髪をぐしゃぐしゃかきまぜる。
「ランボさん、指輪なんて知りませーん。」
 ランボはくすぐったがって、にゃははと笑っている。

「ケチですねー。安物の指輪一つで。」
 ハルはテーブルの上の指輪を一つ取って、自分の指に嵌めてみた。
 ごつくて全然可愛くない。
 その割にサイズはぴったりで、はれれ、ハル太った?むくんだ?きゃー。
 なんてやっていたら、イーピンもやっぱり女の子、隣に来てうらやましそうな顔で見ている。

「イーピンちゃんもつけましょ。」
 ごつい中でも比較的細い指輪を選んで、イーピンの指に通してみる。
「はわ。イーピンちゃんには大きいですねえ。」

「おい、人のモノで勝手に遊ぶなよ!」
 ランボの頭から出てくる草の種やら玩具やら飴玉をよりわけながら、獄寺が怒鳴る。
 その手にキラリ。まだ一つ指輪が残っているのが見える。
 あの光り方は。

「獄寺さん、その指輪、フリーサイズじゃないですか。」
「・・・フリーだけど。」
 獄寺がいやあな顔をする。

「イーピンちゃんに貸してあげて下さい!」
「いやだ。」
「けち!」
「ケチでもなんでもダメなもんはダメだ。コレ、お袋の形見なんだぞ。」
「じゃあ、女の子用ってことですね!イーピンちゃんにぴったりです。」
 強引なハルの口調に慌てたイーピンがふるふる頭を振っている。
「イーピンちゃん、可哀想ですー。」
 ハルの言葉に獄寺が指輪を探す手を止める。

「・・・・・・ガキの頃から、一度も外したことないんだぞコレ。」
 獄寺は左手の薬指に嵌められた、その細い指輪を見つめた。

「下さいなんて言ってませんー。ちょっと貸してって言ってるだけじゃないですか。」
「・・・。」
 獄寺が指輪をくるくる回す。
 あともう一声です、とハルが思った時、獄寺が言った。

「・・・・・コレ外すとチンコもげるって言われたんだゾ。」

「キャー!きゃー!キャー!セクハラ発言です!!変態です!」

「うるせえ、これ嵌めてチンコ生えても知らないからな!」
 獄寺は勢い良く指輪を外した。



「良かったですね。イーピンちゃん。」
 勝った!やった!と満面の笑顔のハルをよそに、イーピンはその指輪をつけたがらない。
 しゃべらないけど日本語を理解できているのだ。

「・・・じゃ折角だから、ハルがつけてみましょう。」
 そのほかの指輪とは全くテイストの違ったシルバーのリングは、繊細なレース様の文様と筆記体の
文字が刻まれていて、華奢で可愛い。
 結構ハルの好みかもしれない。
 左手の薬指にはめてみると、サイズを直していないのにハルの指の径にあってしまう。
 あーらら。やっぱり、太っちゃったかなあ?
 それより、獄寺の指はどれだけ細いのかと振り返って見ると。

「・・・・チンコもげたぞオイ。」
 ふわふわの銀髪を腰のあたりまで垂らした少女が、一人険しい目で凄んでいた。

「はれ?獄寺さん髪伸びましたか?」
「そーいう問題じゃねえ!よく見ろ!女になっちまってんだろ!お前はチンコ生えてねえのかよ!」
 ミルクに一滴、イチゴジュースを垂らしたような肌。
 サクランボ色の唇。
 くるんとカールした長いまつげの下の、碧色した大きな目。

 身長、骨格、身体つきまで、髪の長さ以外の何一つ、さっきまでと変わっていないのに、獄寺は絶
対的に可愛い女の子になっていた。
 ちなみに胸元はさっぱり。
 変わったところといえば、夜の森にかかる霧が晴れて、月明かりの下の湖が見えた時のような、そ
のまとうイメージの変化。

「・・・か、か、可愛いです。獄寺さん。」
「指輪を返せ。」
 
 ハルはぱたぱた自分の身体を確かめた。

「ハルは男の人になっていませんですよ。」
「いいから返せ。」
 ハルが手をぱたぱた動かすので、獄寺は指輪を取り返せない。

「いーやーですー。」

 可愛い可愛い。やーん。見たこともない様な可愛い女の子が、ハルの前でおたおたしていますよ!

「いやでもいいから返せ。男に戻る!」

 ハルは指輪をはめた手をぎゅうっと握り締めて抵抗する。

「現実を見つめて下さい、獄寺さん。この指輪をすると男の人に見えるだけで、ホントは女の子なんで
すよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キット。」

「・・・・ウソ・・・・・」
 思い当たる節でもあるのか、獄寺は固まったまま思案に耽る。
「・・・・・・・・・・・・・・霧の波動?・・・・・」
 困った顔で頭を傾げ、ふわりと長い髪が揺れるその様子が、またなんとも可愛らしい。



「ランボさん、このおねーちゃんと遊びますよ。」
 ランボはその少女を、獄寺と同一人物と認識できていない。
「!※+k*・!」
 イーピンは相変わらず、何を言ってるのか通じない。

 と、いうことは。
 誰も知らないのと同じです。


「獄寺さん。みんなに内緒にしてあげますから、ちょっと聞いてもらえますか?」


 わくわく。何して遊びましょう。
 ハル、とびきり可愛いおもちゃを手に入れてしまいましたですよ!





2009/02/24

 ごめんなさい。雛祭前にぜひともにょたをやっておきたかったのです。
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