毒姫君(どくひめくん) 5

 

(もうすぐ、山本の唇と自分の唇がくっつく。)

 ほんの少し前までキスして殺そうと思っていたのに、殺さないようにキスしないとならなくなるなん
て、本末転倒と思って、今更ながら獄寺は眉を寄せる。
 なんで、こんなことになったんだっけ。
 ああ、そうだ。
 オレ、意外と山本好きになってて、殺すのが惜しくなったんだ。
 え?
 好き?
 わわわ。あわわ。

 屈んで期待している山本は、一向に近づいてこない獄寺が、あわあわしているのに気づいて苦笑す
る。
 
(やっぱり獄寺、ウブくて可愛いすぎ。)

 つきあっていたら、もっと色んなことするのに。
 獄寺、かなり奥手で恥ずかしがりだから、これから一つひとつハードル越えるの大変そうだ。
 あ、そうだ。
 山本は屈んだ腰を伸ばし、姿勢を直した。

「獄寺、タンマ。」
 山本がストップをかけて、獄寺は見てわかるほどほっと息をついた。
「順番逆になるとこだった。な、獄寺、オレとつきあってくれない?」
 軽い口調ながらの真面目な顔。

「え。」
 獄寺は目をしばたいた。
 そうかキスするって、そういうことか。
 山本の目を見ていたら無条件で肯定しそうな気がして、獄寺は目を瞑って考える。
 今現在、山本とキスはしたい。
 いつかまた、山本を殺したくなった時も、つきあっていた方がキスしやすいだろうから殺しやすい。

(・・・・・だけど、オレとつきあったとして、山本になんかいいことあるんだろうか?)

 こうやって手を繋いだり、触るだけのキスをしたりはできる。
 だけど、それ以上のことは多分させてやることはできない。

「んんんんんん??」

(なななな。キス以上ってなんだ。オレの頭、何を考えてる!?)

 キス以上って、BとかCとか?えええええええええ?

 獄寺は目を見開いて山本の顔を見た。
 BとかCとか、この山本とオレが?
 え、あ、そうかBとかCとかできないんだった。
 でも、山本優しく触ってきそうだけど、体力あるから長そうだとか、途中で嫌だとか言いだしても逃げ
られそうもないだとか、泣かされそうだとか、想像だけはできてしまうのは、なんなんだだだだだ。


「・・・獄寺君、ムッツリスケベ。」

「え?」
「あ、ツナ。」
 2人の横にツナが立っていた。

「とりあえず、つきあうつきあわないはおいといて、キスだけしてここは解散にしなよ。ギャラリー増える
前に。」

「ギャラリー?」
「ツナ以外に誰かいるか?」

「そこ。」
 保健室の窓の内側で、シャマルが腹を抱えて笑っているのが見えた。


 結局、ツナとシャマルが見ている前でキスする度胸はなくて、解散になった。
 ずっと繋いだままだった両手を離すと、獄寺は山本が遠くなった気がして寂しくなる。
 そんな獄寺に気づいているのかいないのか、山本は獄寺のつむじにぽんとキスをした。
「ひゃっ。」
 獄寺は思わず頭を抱えた。
「また後でな。」
  山本が部の練習に戻るため走って行くのを眺めながら、あれはさっきまで自分とキスしようとしてい
た男なんだよなあと、獄寺は不思議な気分になった。

「獄寺君、こっち。」
 ツナが獄寺の腕を掴んだ。
「はい。」
 そういえば、山本のことにかかりきりで、10代目とこうやって話すのは久しぶりだと獄寺は気づく。
 恥ずかしいから、人前でホモるのやめてとか叱られるんだろうか。
 オープン過ぎて恥ずかしいのは、オレのせいじゃない。山本のせいだ。
 10代目に山本のせいで叱責されるぐらいなら、やっぱり山本、殺した方が良かった・・・・・・・・良くな
い。
 まだ、触れるだけのキスさえできていないのに。殺してしまったらつきあうこともできないし。

「ここ座って。」
 獄寺は保健室の椅子に座らせられた。10代目はその前に立ち、シャマルは机に足をのせだらしなく
煙草をふかしている。

「獄寺君。オレ、怒ってるんだよ。」
 獄寺はシュンとしおれた。

「ごめんなさい。」
 山本にかかりきりでごめんなさい。ここ何日か、山本のことばっかり考えてましたごめんなさい。
 ツナが何を怒っているのかわからないながら、獄寺はひとしきり心の中で謝罪の言葉を連ねた。
 
 ツナはいきなり強い力で、うなだれる獄寺の首元のシャツを掴み上げた。

「えっ」
 これまでツナからそんな扱いを受けたことがなかった獄寺は、驚愕に目を見開く。

「10代めっ。苦しっ」

 ツナの手はなおも獄寺を揺すり上げ、顎を打って獄寺の顔を上げさせる。
 そして獄寺の耳元に口を寄せ、囁くような声で言った。

「獄寺君、君、山本を殺そうとしてるよね?」

 


2009/03/24

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