テンペスト2 

 

 翌日、山本は店に行き、獄寺の指示通り働いた。

 店内に他のスタッフはいない。もともと獄寺一人の店だという。
 棚卸といっても店は開けているので、少ないながらも来客があれば、獄寺は接客にまわる。
 短い間そこにいただけでも、獄寺がその店のなかで楽しんでいるのがわかった。

 作業をしながら、山本は獄寺からその店についての話を聞いた。

「ツナ、うまいこと考えたもんだな。」
 
 その店は、ツナの提案で獄寺に任されたものだという。
 ダイナマイトの仕入れに行くのに、それだけではもったいないから、趣味の服の仕入れでもやってみ
たらとぽんと資金を提供してくれた。
 そうして古着屋を始めてみると、買い付けを口実に各国で諜報活動や、物品の運搬に大変好都合
だった。ツナはそれを見越していたのだ。
 そして今では立派にボンゴレの出先機関として機能しているというわけだ。

「この店の営業自体はすっげー赤字。オレが買い付けに出てれば休み。守護者として動いてる時も休
み。」
「へえ。おもしろいのな。」
 山本は、店の品揃えが獄寺の趣味に偏り過ぎているせいもあるのではと思ったが、指摘はしなかっ
た。
 商売が目的でない。ボンゴレのためだけでもない。
 獄寺が楽しめるように、ツナが与えた玩具なのだ。

「・・・というわけで、バイト代は出ねえ。」
 獄寺はへへと笑った。
「オイオイ。今日一日ただ働きかよ。」
 もちろんバイト代を目当てにしてはいない。
 獄寺に会いたくて来たのだが、そうきっぱりと言われたら、不平が零れるというものだ。

「そのかわりに、これ着てみてくんねえ?」
 獄寺は可笑しそうな顔で、山本に紙袋を差し出した。

「お前に似合いそうだと思うんだけど、サイズがあうかわかんねえから。」

 そういえば、もともと服を誂えに来たんだった。
 山本は紙袋を受け取った。
 案外重い。ダイナマイトでも混じっているのか。

「もう作業終わりにして、試着してみろよ。」

 山本は獄寺に促されて試着室に入った。

 紙袋の中に入っていたのは、獄寺の普段着ほど尖がっていない、山本が使えそうなデザインの服だ
ったので安心する。
 トップス、ボトムス、アウターが、それぞれ3着で、1組ずつコーディネートされてまとめられていた。
 山本はまずそのうちの1組を試着することにした。

「まだかー?」
 試着室の外から、獄寺が声をかける。
 カーテンの裾からは試着室の前を行ったり来たりする獄寺の靴先が見えていて、山本は試着室のミ
ラーに映る自分の顔が笑うのを見る。

「着れたー。」
 カーテンを開けて見せると、獄寺が嬉しそうな顔で見ていた。

「おう、サイズあってるな。じゃあ次。」

 あっさり、試着室に戻された。
 服屋なら、もう少し褒めてくれてもいいんじゃねえのかと、山本は思う。
 あんなまぶしそうな顔をして見ているのなら。

「着れたかよー?」
「はええよ。獄寺。」

 山本はボトムだけ履き替え、上半身裸の状態で試着室を出ながら、トップスを着る。
 ミラーに向かいアウターをはおる。

「ほい、着れた。」

 獄寺の返事がない。

「・・・・・お、いいな。じゃあ次。」

 遅れて応える獄寺が、ミラーに映っている。赤い顔。
 山本が振り向いて確かめようとすると、獄寺はそっぽを向いた。

「ほら、最後のはやく着てみてくれ。」

 それでも見える頬は確かに赤い。

「はやく、はやくって、せかし過ぎだっての。」

 山本は試着室へ戻った。
 着ていた服を脱ぎ捨てる。自分の着てきたものを含め、散らばる服を紙袋に突っ込む。

「昨日、今日準備したものじゃないよな。」

 3組目のデニムに足を通す。
 3組とも店で扱っているものとテイストが違う。
 明らかに、山本のだけのために買いつけられたもの。


 ツナの許しがあって。
 獄寺にあんな反応されて。


「おい、獄寺、このジャケット、どう着るんだ?」

 カーテンの裾から見える、獄寺の靴先。

「ん?」

 山本はカーテンの間から手を出して獄寺の腕をつかむ。

「獄寺、教えてくれよ。」

 そのまま中へと引き入れる。

「・・・・・・わからないんだ。いろいろ。」


 獄寺は試着室の中に引っ張り込まれた。


「ちょっ、ちょっい、待てって、山本!!」

 






2009/03/05

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