テンペスト1 

 

 告ってきた女子とのデートへユニホームで行ったら、待ち合わせ場所で即刻振られた。

「ユニホーム姿が一番好きだって言ってたのにな。」

 山本がそう言うと、ツナは笑って、それならいい洋服屋を知っているから私服を揃えてみたらとメモを
書いて寄こした。


 山本とツナは並盛高校へ進んだ。
 二人ともマフィアと高校生の二足の草鞋の生活だ。
 てっきり、獄寺も同じ高校へ進むと思っていたが、中学入学以前に大学入学資格試験に通っている
とかで、高校には入らなかった。
 中学の卒業式の日に、高校では山本が10代目をサポートしろよと言われた時は目の前が真っ暗に
なった。
 単純に獄寺に会う機会が減るというだけでなく、言外に獄寺がツナを仕事の面だけではなく、ごくプ
ライベートな面でもサポートするのだと伝えてきたのがわかったからだ。

 あれから1年。

 長期の休みの間にイタリアで数日間の修行を行った際に顔を見た他で、山本が獄寺に会うことはな
かった。


「ここか。」

 若者で賑わう駅前からしばらく歩いて坂道を下り、アパレルの店舗が並ぶビルの前に、ただ五線紙
に書きなぐっただけといった風情の看板を見つけた。

「テンペスト。」

 古びた階段を上りベニヤのドアを開くと、そこは古着屋だった。

「これはオレというより、獄寺向きだな。」

 広くはない店内にいっぱいに棚が設けられ、服、ブーツ、アクセ、雑貨が所狭しと並んでいる。

 ファッションに疎い山本でも、そこがヨーロッパ古着を専門に扱っている店であることがわかる。

「ん。獄寺向きというよりも。」

 獄寺の趣味、ど真ん中の品揃えだ。

「ツナ、別れても獄寺の好みの店しかチェックしてないってことかな?」

 ツナの口から、獄寺と別れたと聞いたのは三月程前。

 つきあっていたとはっきり言われたのもそれが初めてで、ツナがあまりにさっぱりきっぱりしていたの
で、山本は何があったのかツナに訊くことができなかった。

 ツナが触れられたくないと思っているのが、伝わってきたからだ。

「・・・まあ、ツナの勧めだし、一応見て何か買って帰るか。」
 
 あまり値段が高くなくて普段使いできるものをと探していると、日頃山本が服を買う店ではお目にか
からない奇抜なデザインが面白く、あれもこれもと見ているうちにすっかり夢中になってしまっていた。

 とん。とん。

「オイ、山本、場所取り過ぎだ。」

 山本は感電でもしたように振り返る。

「この店、せめえんだから通路塞ぐなよ。」

 山本の肩をハンガーの束でつついていたのは獄寺だった。


「10代目が短期バイトの人間寄こすって言ってたけど、なーんだお前かよ。」

 言葉に反して獄寺は満面の笑顔だ。

 山本はただ、獄寺を見た。

 中学時代と変わらない口調。
 身長差が広がった。
 少し痩せた。
 髪が伸びた。

「明日、棚卸なんだ。頼むな、山本。」

「ああ。」



 ああ、謀られたんだな。ツナに。





2009/03/05

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