ボンゴリアン七夕

 

 リボーンがボンゴレ式七夕の開催を発表したのは7月4日の夕方だったので、試合時間は実質5、
6、7の3日間になった。

「ファミリーの結束を高めるために、ボンゴリアン七夕を行う。各自笹に飾りつけをして、通りがかった
奴に短冊を一枚ずつさげてもらえ。7日の夕方までに一番多く短冊を集めたモンが勝ちだ。7日の
夕方のこの時間に笹を持って集まれ。例によってビリの奴は殺すぞ。」

「またリボーンの思いつきに3日も振り回されるのか・・・。」
 暗い顔するツナをよそに、山本と張り合う獄寺は右腕に相応しい笹飾りを作ってみせますと意気込
む。

「毎年、店に笹飾ってるから、オレはそれでもいいよな?」
「いいぞ。」
 竹寿司の七夕飾りはもともとこの辺のちょっとした名物なのだ。あさり道場裏の竹藪から切ってきた笹
を店 の表に出して置けば、毎年、店の客や近所の子どもが好き好きに短冊をかけていく。
「リボーン、山本には甘いよな~。」

 ツナをはじめ獄寺、山本、ランボの守護者らは強制参加決定だが、ハルと京子も自主的に参加を
表明した。

「楽しそうです~。」
「夢があっていいよね。」

 1等の賞品は『リボーンちゃんと一緒に並盛商店街の七夕祭りを楽しむ権』がいいとハルが言い出
し、リボーンは了承した。

「あたしはガキの相手なんて遠慮したいから、参加者の管理と7日のジャッジをやらせてもらうよ。ほ
ら、エントリーシートに名前書いといて。」

 京子とハルに挟まれて同席していた黒川花が、けだるそうにルーズリーフをひらひらさせる。

「お兄ちゃんは、リボーンちゃんより『パオパオ師匠の指導受ける権』の方がよさそう。」
「なら、備考欄に書いといて。」

 その夜早速、花はエクセルで集計シートを作成した。日ごとの獲得短冊枚数の記入欄、合計欄を作
って数式を 入れ、エントリー順に参加者氏名を打ち込む段になって、花は目をしばたいた。

「あのノゾキ野郎、いつのまに。」

 エントリーシートの一番最後に、わずかばかり右肩上がりの筆跡で雲雀恭弥の名前があった。『赤
ん 坊と手合わせする権』と備考欄にまで記入してある。
 黒川花の中で、雲雀恭弥の評価は急降下中だ。雛祭では着替え中を覗かれるし、子どもの日に
は、女の子が雲雀の名を呼んで号泣するのを見た。

「そうだ、あの鳩って子も入れとこう。ハルの家にホームステイしてるんだっけ。」



 獄寺が、自分が2人分の名前でエントリーしていることに気づいたのは、7月7日の朝、学校で花に
集計シートを見せてもらっている時だった。

「げっ。この、鳩って。」
「ん?獄寺の父違いの妹だろ?ビアンキ姉さんとは父母違いで他人の。」
「うぇっ。そーいうことになってんのか・・・。そうそう、鳩は4日はいなかったけど参加できんのか?」
「いいんじゃない。この頃イベント事には参加してるし。ハルに言っといたから今日は来るっしょ。」

「チッ、ハルの奴め。」
 ハルに怒りのメールを送ろうと、獄寺は黒川から離れてから携帯を開いたところで、5日の朝にハル
から届いていた「2人分頑張って」という件名のメールをチェックしていなかったことを思い出してしまっ
た。

「わ。わ。わ。」
 たとえお遊びでもボンゴレの名前が冠せられた以上、獄寺はビリになるのは嫌だった。10代目の右
腕としてボロ負けなんてありえないのだ。



「今から笹作っても、ランボにも負けちまう。」
 獄寺が救いを求めたのは雲雀だった。中学の授業なんてサボリである。
 並盛高校の応接室には、それはもう見事な七夕飾りが下がった笹が立っていた。雲雀が風紀委員
長の権力を行使して全校生徒・教職員に短冊を書かせたのだから、現時点でダントツ1位。

「鳩の方は欠席で、不戦敗でいいんじゃない?」
 今晩ほぼ確実にリボーンと手合わせができることになって、雲雀は機嫌がよろしかった。

「可能性が0でないかぎり敵前逃亡はしたくねえ。なあ、短冊分けてくれよ。こんなにあるんだから。」
「できないよ。知ってるでしょ、黒川が1日ごとに集計してるの。今朝までの分はさっき数えていった
し。」
 きっとチェルベッロの中身は、黒川みたいなやるとなったらとことんやる普通の女なんだろう。獄寺は
真理の一端を覗いた気がした。

 しょげる獄寺を見て雲雀は考えた。鳩のビリが確実なら、獄寺は今夜参加しないかもしれない。リボ
ーンと華麗に戦う自分の雄姿を、獄寺に見てもらえないのはつまらない気がした。
「助言できないこともないけどね。」
「なに!?」
 獄寺の身体がぴくんと揺れて、全身で雲雀に向いた。

「可愛い奥さんのために一肌脱いであげるよ。」
「ぶっ。お、おくさんって!!籍入れただけだろっ!」
「さあ。竹を切りに行こうか。」



 雲雀が獄寺を伴って行った先は、あさり道場裏の竹藪だった。

「あの軒下と提灯に防犯カメラがついているから、指輪を外して切っておいでよ。」
 雲雀は獄寺の手に、ポンとのこぎりを渡した。
「手早く作業を終えないと、山本剛が包丁握ったまま飛んでくるかもよ。」

 獄寺は考えた。証拠が残ってしまうなら、確かに剛と面識のない少女の姿の方が後々面倒がない。
しかし、女の服が無かった。

「そのままでいいよ。獄寺隼人似の女が獄寺隼人に罪をかぶせるために、並中男子制服着てるよう
に 見えるから。」
「そんなもんか。」

 指輪を外した獄寺が笹を切って防犯カメラの圏外に出るまで、雲雀はじいっと獄寺を見て待ってい
た。ふわふわと長い銀髪の少女の男子制服姿に、思いがけずときめいてしまった雲雀だった。

「じゃあ、行こうか。」

 雲雀は笹の先を手に取った。獄寺は根元の方を持ち、2人前後になって歩いて行った先は並盛商店
街 だった。メインストリートには色とりどりのくす玉状の七夕飾りや笹竹が立ち並んでいる。

「ここに立てとけば、後は商店会でやってくれるよ。」
 各商店でサービスとして短冊を配布しているから、何の装飾もしていない獄寺の笹にも、既にちらほら
買い物客が短冊をつけ始めている。
「これで0点てことはないでしょ。」
「いや、まだランボに勝てるかわかんねえ。」

 朝の集計では、ランボの短冊は30枚だった。意外に多いのは、ボビーノのお詫び係がこっそり短冊
をさげていってくれたから。実は中には入江正一の書いた短冊も混じっているのだが、誰も気づいてい
ない。

「君も書いたら足しになるんじゃない。」
「そうだな。雲雀もなんでもいいから書いてくれよ。」


『10代目の右腕になれますように  獄寺隼人』
『夫婦円満  雲雀恭弥』


「何だよ!それはっ!」
「はずしたっていいけど、子牛に負けるかもね。」
「クソッ。」

 

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2009/07/07

 


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