恋愛アレルギー1

 ある朝、ツナと一緒に登校してきた獄寺が教室に入ると、そこに雲雀がいた。
 獄寺の席のちょうど真後ろの席について足を組んでいて、本来その席である女子は壁際で半泣きに
なっているし、クラスの他の連中も雲雀を遠巻きにしてこわごわ様子を伺っている。

「朝から何の用だ、ヒバリ!」
「君の就学態度は目に余るものがあるからね。風紀委員として監督させてもらうよ。」
 途端に周囲の冷たい視線が獄寺に集中するのに焦って、ツナが口を出した。
「でも、ヒバリさん自分の授業に出なくていいんですか?」
「僕はいつでも僕の好きな学年だよ。」
「なんだよ、それー。」
 がっくりと獄寺は席についた。



「つ、疲れた。」
 昼休みの屋上。
 ツナと山本が弁当を食べる脇で、獄寺は体育座りでぎゅうと膝を抱え、俯いている。
「居眠りどころか、よそ見したり姿勢崩したりするだけで、殴るんだぜー。もう、肩はガチガチだし腰もガ
タガタ。」
 山本の視線が獄寺の細腰を往復するのには気づかないふりで、ツナはよしよしと獄寺の頭を撫で
た。
 色素が少ない分柔らかな感触。多少鬱が入っている時の獄寺君はかわいいなとツナは思う。
「ああー、さぼりてぇ。」
 獄寺の腰を撫でようと伸びてきた山本の手を、ツナの膝がうっかりというふうに踏みつける。


 バサっ。
 黒鳥が舞い降りるように、肩にはためく学ラン。

「君たち、また群れているね。」
 あーあ。やっぱり来ちゃった、この人。
 ツナはおにぎりを咥えたまま、雲雀を観察する。

「昼休み中に昼食をとることは校則で定められている。」
 雲雀は獄寺の前に紙袋を置いた。
「食べないと殺すよ。」

 実は獄寺は相当食が細い。何かあれば昼食を抜くのはしばしばで、午後になって白い顔で「脳貧血
すっと、ふわふわして、いー気持ちいー。」と言っているのを聞いてから、ツナは獄寺を可哀想な人に
認定した。
 風紀委員会が生活指導として獄寺の食事管理に取り組むというのなら、ツナも協力するのはやぶさ
かでない。

「いらねー。」
 案の定、獄寺は袋を見もしない。
 ピリピリしている雲雀が暴力に走る前に、ツナが口を挟む。
「獄寺君、お礼言わなきゃ。袋、開けてみなよ。」
「・・・はい。10代目の仰せでしたら。」
 獄寺はいやいやという様子で袋を手に取る。


「食べないと殺す。」
 握った雲雀のこぶしが力み過ぎて、微かに震えている。
 雲雀がさっきよりも余計にピリピリしているのが感じられて、ツナはこの人も相当可哀想な人だと思
う。
 今、自分が「風紀」の名のもとに起こしている行動の要因が、自分の中のどこに端を発しているのか
さえわからないでいるうちに、アレルギーが発症している。
 それでいて雲雀が自分の感情に気づいてしまったら、より重いアレルギー症状が出るだろうことも予
測できて、今更言うに言えないとツナは思う。

 シャリシャリ。

 雲雀は、ツナと山本に絶対獄寺に食べさせろと一方的に命じて、委員会があるからと校舎に戻って
いった。

 シャリシャリ。

 紙袋の中身は保温容器に入ったコンソメスープとウサギの形のリンゴで、何とか獄寺の喉を通りそ
うだった。

 シャリシャリ。

 獄寺はリンゴをゆっくり咀嚼している。

 雲雀はいつも言うこともやることも無茶苦茶だけど、このところの自分に対する態度は、言うことは筋
を通しておいて、やることは無茶苦茶だよなと思う。
 言うことの筋が通っているから、はねのけずらい。
 無茶苦茶さ加減のベクトルが、普段とは別の方向を向いている感じ。
 それがどこを向いているのかなんてわからないけれど、どこか調子を崩した様子の雲雀はなんだか
可愛く思えて、言うことをきいてやりたい気分。

 シャリシャリ。

 甘酸っぱい香りがあたりに漂う。 

 シャリシャリ。

「これ、うまいっす。10代目もお一ついかがですか。山本も。」
 そう言って差し出す獄寺に、ツナと山本は思い切り首を横に振った。




2009/02/21




世界の中心でヒバ獄を叫ぶ!! 企画さまよりお題「今更言えない」を使わせていただきました。



 ラブラブにはまだ程遠い2人です。

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