夏祭りの夜に



 並盛は旧くは「那美杜」と書いた。太古の女神、伊邪那美命の住まう黄泉の国へ通づる森の意であ
る。
 並盛神社の祭神は雲雀様といわれ、その杜を司る神である。
 生けるものすべては遅かれ早かれ、彼の手によって波美杜へいざなわれるのである。 

 また、隣町の黒曜は旧くは「子供養」と書いた。黒曜神社には、幼くして亡くなった子、口減らしのた
めに殺された子らのよみがえりを願って、伊邪那岐命の末の娘である女神が祀られている。その名を
凪という。

 黄泉へといざなう神。一方、黄泉からひきもどす神。
 2柱の神は対立を繰り返してきた。 


 夏祭りの夜のこと。
 皆で河原に降りて花火を見て解散した後、獄寺は一人神社へ戻った。 
 チョコバナナの屋台の番をしたり、チンピラや風紀委員会と乱闘をしたりで忙しく、お参りをする暇が
なかったのだ。
 神社は既に閑散としており、社殿の両脇の提灯だけが煌々と明るい。獄寺は賽銭を投げ、鈴を鳴ら
して祈念した。

「10代目が立派なマフィアになって、無事ボンゴレのボスになりますように。そしてオレはその右腕と
してふさわしい人間になれますように。」

 風紀委員会の仕事を終えられた雲雀様は、日頃変幻している人の子の姿(15)を解かれて、本来の
神の姿(25)に戻られ、本殿の奥からその様子をご覧になっておられた。

 祭礼の昨日今日と、祈願の言葉を聞かされ続けた雲雀様は、飽きに飽かれてご機嫌を害しておら
れた。獄寺らの屋台の売り上げを奪いそこねたことも、お腹立ちの種のひとつとなっている。

「みんなが元気で健康で怪我をしませんように。・・・・それから・・・・・・・・」

 雲雀様は死者を黄泉へいざなう神である。そんな願いをされたところで、叶えようはずはない。
 
(どんなに願いを掛けられって、僕は並盛を守るだけ。)

 雲雀様は乱闘中に獄寺を連れ去って、神様だけがご存知の眺めがいい場所で一緒に花火を見よう
とお考えだったのだが、獄寺が予想外にひどく暴れて抵抗したために、捕獲に失敗なさっておいでで
ある。
 後で獄寺が草食動物たちと群れなして、花火を見上げている様には、いまだムカつきを収められて
いないのである。

(特に、君の願いなんて絶対叶えてあげないよ。) 

 

 暫し言葉を選びあぐねて佇んでいた獄寺が、祈念を続けた。

「・・・・・・・・・・・・・雲雀と・・・雲雀と、もう少し仲良くなれますように。」

 獄寺はもう一度鈴をガランガランと鳴らしてから、逃げるように走り去って行った。


(・・・ワォ。)


 その願い、叶えるも叶えないも、ただ雲雀様のお心のうち。。








2009/04/05
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