嘘つきな大人 

 大人達は一つの嘘を守るためにいくつもの嘘を重ねた。
 後で傷つくのは子ども達だと知っていても。


 呼び出しに応じてわざわざ執務室へ足を運べば、沢田綱吉は自分のデスクではなく、右腕が使用
する小さな机で頬杖をついていた。
「なんの用?」
 雲雀は勝手に綱吉の席、ドン・ボンゴレの椅子に掛ける。
「雲雀さん、獄寺君は今どこですか?」
 座り心地の悪い椅子。
「僕のうちの僕の部屋の僕のベッドだけど。それがなに?今日あのコは非番でしょ。」
 綱吉は和紙柄の紙箱を開き、ひいふうみいと勘定をはじめている。
「うん。ハルが差し入れしてくれたお菓子、一つどうかと思って。」
 雲雀は椅子を立ち綱吉の前に手を出した。大した用事であろうがなかろうが、さっさと済ませて
帰りたい。
「預かっておく。」
 雲雀は、沢田がひょいと差し出す信玄餅の包み二つを受け取った。
「一つは雲雀さんの分。二人で食べて下さい。じゃあ。」
 綱吉は紙箱の蓋を閉めると、再び頬杖をついた。

 
 ミルフィオーレの幹部にまで上り詰めたスパイから入ってきた情報によれば、白蘭は平行世界
視透す力にこと足りず、平行世界間の物体の移動実験を試みているという。
「獄寺君は実験台にされたんだ。」
 この世界の獄寺隼人は、無数に存在する平行世界の一つへ飛ばされてしまった。今この世界にい
るどこからともなくやってきた獄寺隼人は、そのことに気づいていない。
「きっとこの世界とよく似たところから来たんだ。」
 大事だからこそ嘘をつく。
 気づきさえしなければ、遠い自分の世界へ帰りたいと苦しまないでいられるから。
「オレと雲雀さんさえ言わなければ、誰も気づかない。」


 僕と沢田の、どちらが先だったのだろう。
「オレ達の獄寺君は、どこへ行ったんでしょう?」
 いつのまにか、獄寺隼人がすりかえられていることに気づいたのは。
「今この世界にいる獄寺君は、雲雀さんが好きなんですね。」
 口に出して言ったのは沢田の方が先だった。
「オレ達の世界の獄寺君は、オレのものだったけど。」
 沢田に言われるまで、僕は自分自身に嘘をついて、気づかないふりをしていた。


 大事だから取り戻したい。
 そのためにどれほどひどい嘘を重ねたとしても。

 

(2010/01/29)

 獄寺がツナから作戦を教えてもらえなかったのは、ツナの世界の獄寺ではなかったから。

 今この世界にいる獄寺を自分の右腕と認め作戦を教えたら、作戦遂行の意味が消失する。

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