「手紙」

 ポロン。
 獄寺はピアノの鍵盤に触れた。
 ここは体育館。
 獄寺はこんなひどい音響で弾くのはじめてだと思う。
 風邪で寝込んでしまった音楽教師の代わりに、急遽明日の卒業式で卒
業生が歌う合唱曲の伴奏を頼まれたのだ。

「シャマルの奴め、勝手に引き受けやがって。」
 椅子の高さを直して座り、楽譜を開く。
 一度はどこかで聞いたことがある曲。メロディラインさえおさえてしまえば
こっちのもの。
「・・・・へへ。アレンジしまくってやろうかなっ。」
 卒業生が目を白黒させたりして。

「馬鹿だね。」
 ぽかん。
 筒に巻かれた紙で頭をたたかれる。
 演奏に没頭していて気付かなかったが、雲雀が後ろに立っていた。
「明日の主役は君じゃないよ。」
「はあい。はいはい。」
 その間も、獄寺の指は止まらない。
 まるで水の中で泳ぎ輝く魚のようだと雲雀は思う。

「なあ、お前も卒業証書もらったりすんの?」
 雲雀は3年生。当然、明日、卒業式を迎えるのだが、雲雀がおとなしく列
にならんで卒業証書を受け取る姿が、獄寺には想像しがたかった。 

「そう。これ。」
 ぽん。雲雀はもう一度紙筒で獄寺の頭を叩いてから、その紙を開いた。
「おー。卒業証書。ってなんで今ここに。」
 獄寺は演奏を止めた。
「校長に持ってこさせたんだよ。もちろん。」
 群れて並びたくないからね。

「これ、君が持ってて。」
 雲雀は獄寺に卒業証書を差し出した。
「なんで?」
 危険物でもないからいいかと、受け取る獄寺。
「僕が持っていてもしかたないから。」
「はあ。」
 オレが持ってたって、しかたないよなあ。と獄寺は思う。

「いつかこれを僕に返して。僕が必要だと君が思う時に。」
 雲雀がからかうように言う。
「それまで君が持っていて。」
 わけわかんね。ホント自分勝手な奴。
 そう思いながらも、獄寺はそれからずっとその証書を、その時の楽譜と
共に大事に保管し続けたのだ。



 翌日。
 卒業式はつつがなく終了した。
「獄寺君、今日の演奏良かったよ!」
「いえ、そんな。10代目にお褒めいただくほどのものでは。」
 恐縮しながらも嬉しそうな獄寺。今日は正しく標準の制服を着ている。
「昨夜は10年バズーカ改のせいで、3時間もいなくなっちゃったし。君が戻
らなかったら卒業式もどうなっちゃったか。」
「あっち行って慌てましたよ。まったく、馬鹿牛とジャンニーニの野郎は迷
惑ですよね。1回しめてやらないと。あ、すみません、オレ、ピアノの移動も
頼まれてるんで後から行きます。」
「うん。」

 ツナは一足先に校庭へ出る。
 笹川兄妹と黒川花が記念撮影している。あっちへ混ざろうか。

 わわわっ。
 歓声があがる。
 今まさに、風紀委員会のメンバーの列に見送られ、雲雀が校門を出よう
とするところだった。
 雲雀は卒業式自体には出席しなかったのだが。

「雲雀さん!卒業おめでとうございます。」
 ツナは雲雀を呼び止めた。
「やあ、沢田綱吉。」
 その手には卒業証書。
 式には出なかったのに、いつのまに受け取ったのだろうとツナは思う。
「あれ、雲雀さんその卒業証書、ちょっと色が違いませんか?」
 了平の持つ証書よりわずかに紙が黄ばんでいる。

「ああ。昨夜受け取ったからね。」





 
~拝啓 十五の君へ~
アンジェラ・アキ

でございました。

 

2009/03/08

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