マジョリカ×マジョルカ



並中の校庭に叫び声が上がった。
「ミミズだー!巨大ミミズが出たー!」
 校庭のいたるところにボツンボツンと穴が開いて、電柱ほどの太さと長さのミミズ
が、ウニョウニョ、ウニョウニョ這い出してくる。
 見ているだけでもおぞましいのに、出てきたミミズはクネクネとくねって、生徒達の
足に絡みつく。
「助けてー!!」
 ミミズは1人の生徒を捉えると、高く持ち上げてから放り投げた。
「キャアッ。」
「ギャーー!!」

 阿鼻叫喚の悲鳴のさ中、どこからともなく2つの影が走り来る。

「並盛の風紀を乱す者は許さないよ。」
 濃紺のセーラー服姿の少女が、言うが早いか手にした仕込みトンファーで鋭い攻撃
を開始する。
 齢は17、8ほどか。長い手足が舞うように動いて敵を打ちすえる。烏の濡羽の黒
色のショートカットの髪の長めの前髪が揺れるたびに、冷笑を浮かべる切れ長の目が
覗く。その全身が兵器であるごとくに暴力を行使している。

「ちょっと待て!オマエ、勝手にはじめんなよ!」
 一方、裾スカラップの水色のワンピース姿の少女が、ダイナマイトを両手に名乗りを上
げた。
「並盛町の平和を守るために、魔女っ子リカルカ、行きます!!」
 そして狙いを定め、ダイナマイトを投棄する。
 こちらは14、5歳か。スカートの裾から真っ直ぐでか細い脚が突き出している。
ツーテールに結われた灰銀色の髪の下で、寄せられた眉と細められた目には、全体的
なあどけなさに反した凄みがある。

 暫く、2人の連携も干渉もない攻撃が続いた後、校庭には見る間にお化けミミズの
屍が校庭に折り重なっていた。

「そうだ、そこだ!倒せ!」
「頑張ってー!」
 学校中の生徒達が、彼女たちを声援し、称賛の叫びを上げる。
「お願いー!こっち向いてー!」
「ステキー!」


 魔法っ子と名乗るわりに、彼女たちの戦いは肉弾戦だ。
 それには浅くて単純な理由があった。



☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    





「隼人ちゃん、こんにちは。」
「お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
 並盛小学校を出た隼人は、若い女性の声に呼び止められた。
 振り向けば、義兄の同級生の京子とハルが制服姿で並んでいる。
「コンニチハ。」
 隼人は目を細めた。京子とハルは2人とも違ったタイプの美人で、いつも溌剌とし
ていてキラキラしていて眩しい。
 こんなオトナの女の人が義兄の綱吉に相応しいのだろうと思うと、小さな胸がチク
リと痛んだ。

「うちでお茶にしまショ。」
 京子が手に持ったケーキの箱を、チョコンとあげて見せた。
「ツナさんにはハルから電話しておきました。」
 高2の2人が小3の自分にどんな頼みごとがあるのか不審に思えたが、綱吉と親し
い2人に邪険な態度をとる理由もなく、ケーキも魅力的だったので、隼人は誘いを受
けることにした。
「ハイ。」
 隼人がコクンと頷くと、ラインストーンが並んだピンで止めた銀髪がサラリと揺れ
た。カジュアル好みの義兄にあわせて、パーカーとデニムスカートが普段の格好だ
が、ヘアピンだけは自分の趣味で選んでいる。今日のピンはリアルな豹が寝そべるハ
ードなデザインだ。


「あのね、早速なんだけど。」
 隼人がケーキを食べ終わるのを見計らって、京子が口を開いた。
 2人の真剣な面持ちを隼人は瞬きをして見つめた。
 早まっただろうか。話を聞いてからケーキを食べれば良かったのかもしれない。ど
んな依頼かわからないけれど、断りにくくなってしまった。

「隼人ちゃんにコレを受け取って欲しいの。」
 コトン。
 2人はそれぞれ、ピンクのクリスタルのついたステッキをテーブルの上に置いた。

「コレは!」
 それは、並盛町の守護天使、魔法少女リカルカが手にする魔法のアイテムだった。
 世界中の幾つかの都市にはその都市だけを守護する、魔法使いが存在する。並盛町
も魔法使いの恩恵を享けてきた町の一つで、昔からリカルカと名乗る魔法少女に守ら
れてきた。
 リカルカの正体は謎だが、並盛町に在住する少女のいづれからしいこと、10年前後
で代替わりをするらしいことが知られている。

「じゃあ!?」
 隼人は目を輝かせて2人を見上げた。
「そう、実は私達が、」
「リカルカだったの。」
 ウフフ。
 2人は隼人の尊敬の眼差しに、照れくさそうに微笑む。

「スゲー!!」
 隼人は興奮のあまり、うっかり素の男言葉で叫んでしまった。
 来日する前、イタリアでの家庭教師のシャマルの口調をまるまる覚えてしまってい
て、沢田家に引き取られ綱吉に女の子らしくないよと言われてから、ずっと注意して
きたというのに。

「私達、4年生の時から8年間、リカルカをやってきたんだけど、」
「もうそろそろ、ステッキが使えなくなってしまうの。」
「ツナ君から、隼人ちゃん、天才で運動神経も抜群って聞いてる。」
「それに、とっても可愛いから絶対、適役。」
「お願い、隼人ちゃん。」
「次のリカルカをやってもらえる?」
 2人は交互に話した。
 長年コンビを組んだためにツーカーの関係になったのか、元々仲良しなのかはわか
らないけれど、ぴったり息があっている。

「ホント!?」
 隼人の耳が、ポォッと紅く染まった。
 日頃、子どもらしくないと言われている隼人にとっても、町を守って戦う魔法の力
を持ったヒロインたちは、憧れの存在だった。
「ヤルヤルッ!!」
 悪者と戦う強力な魔力が手に入れたい、京子とハルの様にキラキラしたいという思
いから、隼人は勢いづいて返事をした。

「ヤッター。」
「良かったデスー。」
 京子とハルは、胸の前で掌をパンパンと打ち合わせて喜ぶ。
「嬉しい。もうあの名乗りを上げなくていいのね。」
「あの衣装も着なくていいんですねー。」

 2人の様子を見て、隼人は羨ましい気持ちになった。イタリアにいた時も、日本に
来てからも、心から笑いあえる友達なんていなかった。
 アレ?そう言えば。隼人は疑問を口にした。
「京子さん、ハルさん。もう1人は、誰?」
 京子とハルは手を取りあったまま固まった。
 しかし、すぐに笑顔を浮かべて隼人に向き直った。
「ゴメンネ。実は、まだ決まっていないの。小学生の知り合い、隼人ちゃんしかいな
くって。」
「だから、隼人ちゃんの仲の良いお友達の誰かを誘ってね?その方が一緒にリカルカ
をやっていく上でも、気があっていいでしょう。」
 ニコニコ。ニコニコ。
 ニコニコ。ニコニコ。
 年長者の2人の無言のキラキラした笑顔の圧力とケーキの恩義に、隼人は屈する他
なかった。
「・・・・・ハイ。」


 隼人は西の空が茜に染まる頃、並盛公園を早足で歩いていた。花柄の巾着袋に包ま
れた魔法のステッキの端が、赤いランドセルからはみ出している。
 笹川家から沢田家へは、公園を突っ切るのが一番の早道なのだ。ハルは電話をした
と言っていたけれど、あまり帰りが遅くなれば綱吉が心配するかもしれなかった。
「誰にしようかな。」
 隼人は困っていた。
 隼人には、仲が良い友達なんていなかった。同年代の子どもは知能が低くて話しに
ならない。そうかと言って年上の人間は、隼人の年齢を知ると能力を評価してくれな
い。

「ビアンキに頼んでみようかな。」
 数日前から、沢田家には隼人と半分血の繋がった姉だという少女が滞在していた。
 ビアンキは隼人より3つ年上でまだ小学6年生なのに、いやに大人びてコケティッシ
ュで、綱吉の家庭教師のリボーンの愛人を自称している。
 その過剰な女っ気に、怖さと近寄りがたさを感じて避けてはきたけれど、他に候補
が思いつかない。帰ったら訊いてみようと思った。

 その時、木陰から何かが猛スピードでコロコロと転がってきた。
「っ痛!」
 見れば、棘のついたボール状の物体が、足の甲に乗っていた。一見、大きめのイガ
グリなのに、ピクッピクッと動くのが気味が悪い。
「何だろうこれ?」
 よく見ようとして腰を深く折ると、逆さまになったランドセルから、ステッキが2
本滑り落ちた。
「あっ。」
 ステッキはイガイガの上に命中した。
「ピギャウッ」
 イガイガが悲鳴をあげて逃走する。運の悪いことに巾着袋の生地がイガに刺さった
ままだった。
「待って!」
 隼人はボールの後を追ったが、イガイガは一瞬のうちに植木の陰に隠れてしまった。
「返せー!!」



 ギィー。
「・・・・・どう、しよう。」
 暗くなった公園で、隼人は立ち乗りでブランコを漕いでいた。思い切り勢いをつけ
て漕ぐと、ブランコは地面に水平になるまで高く上がった。
 ギィー。
 公園の隅から隅まで探し回ったが、イガイガもステッキも見つからなかった。
「どうしよう。大事なものなのに。」
 隼人の目に涙の粒が光る。
 ギィー。
 ブランコの遠心力で、涙の粒は遠くへ飛んでいった。
 ギィー。
「コラ!こんな遅くまで何してるんだ!」
 気づけば、ブランコを囲う柵の向こうに綱吉が立っていた。水銀灯が照らす義兄の
顔は、これまで見たことがない厳しい表情だった。
 そう言えば、門限をすっかり過ぎてしまっている。
 いつも、綱吉に好かれるよう、いい子でいようとしてきたのに、どうして今日に限
って、取り返しのつかない失敗ばかりしてしまうんだろう。そう思うとまた涙が沸いてきた。
 ギィー。
「降りてきなさい。」
 厳しく冷たい綱吉の声が聞こえた。
 ギィー。
 隼人の手からチェーンが離れる。キラリ。涙の粒も飛ぶ。
「隼人!」
 綱吉はブランコから飛んできた小さな体を、しっかりと胸で抱きとめた。
 ギィー。
 無人になったブランコが惰性で揺れ続けている。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
 隼人は綱吉の首にすがって、謝罪の言葉を繰り返した。
 綱吉はポンポンと隼人の背を叩いた。
「わかったよ。もう門限破るなよ。おにいちゃん、心配したんだから。」
 地面に下ろされてから恐々と見上げれば、綱吉の顔はもういつもの優しい兄の顔に
戻っていた。
 綱吉はランドセルを拾い上げると、隼人の手を取った。
「さ。うちへ帰ろう。」
「うん。」
 隼人はぎゅうっと綱吉の手を握った。



 その日から、隼人は時間のある限り、公園でステッキを探した。
 あの日、京子とハルから受けた説明によれば、リカルカになると了承した時点で契
約がなされたことになり、有事の際はステッキを持っていない時でも魔法少女に変身
できるという。
 しかし、ステッキが無ければ魔法は使うことができないし、任意の武器に変化させ
られるステッキが無ければ、素手で敵と戦うことになる。
 京子とハルに相談をしようかと考えたが、大事なものを貰ってすぐに失くしてしま
った後ろめたさから、言い出せないでいた。
 ステッキを探した後、隼人は家に帰る前にブランコを漕いだ。ブランコを漕いでい
れば、涙は遠くへ飛んでしまって、頬を濡らさないことを発見したからだ。
 そして気が済むまでブランコを漕いでから、門限の前に家に帰る。

「ただいま。」
「お帰りー。手を洗っておいでー。」

 沢田家で暮らすのは、義兄の綱吉とその家庭教師のリボーン、そして隼人の3人き
りだ。義父にあたる家光は、隼人をイタリアから引き取ってくるとすぐ、転勤を理由
に義母の菜々と共に家を出てしまった。だから、隼人にとって家族といえば綱吉とリ
ボーンしかいない。ビアンキはいつの間にか、イタリアへ帰っていた。

 夕食後、リボーンが隼人に言った。
「オイ、隼人。明日から、オマエに専属の家庭教師がつく。」
 リボーンは年齢不詳の男で、高2の綱吉よりも幼く見える時もあれば、年上に見え
る時もある。何を教えているのかわからないけれど、綱吉には酷く厳しい教師らし
い。それでも、隼人にとっては、妹に甘い兄のような優しい存在だった。
「えっ?」
 ステッキを探す時間が減ってしまうかもしれない。
 今だって学校が終わってから門限までの間にしか探せないのに。
 隼人は眉を寄せた。
「そんな顔すんな。きっと、オマエのためになる。」
 リボーンは隼人の頭をコチャッと撫でた。
 大きな手がくすぐったい。
 隼人が身じろぎしてもリボーンは撫でる手を止めなくて、隼人はクスクス笑いを抑
えきれずに吹きだして、リボーンの腹に両手を巻きつけてしがみついた。
「隼人、後片付けするよ。食器を下げて。」
 綱吉の声が響くまで、2人してじゃれあっていた。
「フッ。ツナの奴、妬きやがって。」
 リボーンが隼人の耳元に囁いた。
「無理すんなよ、隼人。」
 そして離れる。
「?」
 隼人はリボーンの言葉を不思議に思ったが、綱吉の手伝いに集中するうちに忘れて
しまった。


 翌日、学校が終わって家に帰ると、小さな顔の中に大きな目ばかり目立つ、クロー
ム髑髏と名乗る少女が隼人を待っていた。隣町の黒曜中の制服を着てはいるけれど、
丸みのある血色のよい頬のせいで、より幼い印象を受ける。
「私に教えられるのはこれだけだよ。」
 クロームはカラフルな合成樹脂製のリングを繋げた玩具、チェアリングでお手玉を
して見せた。それが大して上手くもない。
 隼人がいつまで相手をしないといけないのかなと困っていると、お手玉の一つが空
中で爆発した。突然の光と破裂音に、目が眩み鼓膜が痛む。
「やってみて。プラスチックのリングをプラスチック爆弾に変えるだけだから、簡単
だよ。」
 呆然としていると、クロームは隼人の顔の真前で、お手玉を爆発させた。
「キャッ。」
 衝撃で床に倒れたところを、クロームが肩を掴んで引き起こす。
「やって。」


「クローム、結構、スパルタなんだ。」
 隣室でディスプレイを注視する綱吉の口から、焦りの言葉がこぼれるのをリボーン
が聞いた。
「チビに大怪我はさせねえよ。安心しろ。」

 綱吉はイタリアの一大マフィア、ボンゴレの10代目を継ぐ可能性のある人物の一人
だった。平凡な生活を送っていたのに、中学生の時にリボーンがやってきてから、わ
けのわからないマフィア教育を受けさせられてきた。
 そんなある時、2人は綱吉と長年のつきあいがある友人の京子とハルの2人が、実
はリカルカであることを知ってしまった。

 ボンゴレの現在の科学技術では、魔法使いのステッキは作れない。リングや匣と同
等に、今後の研究課題ではあるのだが、絶対数が少ない。それなら、ボンゴレの息が
かかった者を次のリカルカにして、ステッキを手に入れよう。そう考えたリボーン は、
綱吉の父でありボンゴレの顧問である家光と相談の上、イタリアの魔法使いの家系の
血を引く少女を買い取って、沢田家で育ててきた。そして綱吉の義妹として、京子と
ハルの目の前にちらつかせてきたのだ。

 案の定、京子とハルは隼人を次のリカルカの一人に指名したらしいのに、どうした
わけか隼人は魔法のステッキを家に持ち帰らなかった。リカルカの相方をさせるため
にイタリアから招いておいたビアンキにも、声をかけずじまいだった。
 隼人の様子を見れば、すぐにステッキを公園で失くしたことはわかった。ボンゴレ
の指示で並盛町の至るところで捜索がなされたが、ステッキは見つからない。2年が
かりの計画がおじゃんになってしまった。

 だからといって、用なしだと隼人を放りだすわけにもいかなくなっていた。綱吉に
とってもリボーンにとっても、今や隼人は大事な家族であり可愛い妹なのだ。
 そればかりか、今後、並盛町に襲来する化け物に、ステッキもなしに魔法少女とし
て戦っていかねばならなくなった隼人のために、戦う術を授けてやろうと苦心してい
た。

「もともと、魔法使いの素質のある子を連れてきたんだから、なんとかなるよね。」
 ディスプレイの中の隼人が、クロームの操る幻覚に翻弄される様を、綱吉は心配顔
で見つめている。
「魔法のコツを掴んでくれりゃあいいけどな。」
 軽い口調で言うリボーンも、隼人の辛そうな顔を見る度に息をのんだ。リボーンに
も魔法は畑違いで、直接指導してやることもできない。
 クロームとて魔法が使えるわけではなく、あたかも魔法を使っているように見せか
けて、隼人に魔法を使える気にさせようとしているに過ぎない。
「・・・・・そんでもダメなら、化け物はオレが片してやる。」



「それじゃ、化け物がこの町に来ても、誰も助けられないんだよ。」
 クロームの手がお手玉を弾いている。
 クルクル、クルクル光が回る。
 半催眠状態の隼人は、何もできないことが悲しくて悔しくてしかたがなかったが、町
なんて大きなものを自分が守るというイメージは掴めなかった。
「よく見てて。」
 クルクル、クルル。 
 色鮮やかな光のお手玉の輪の中に、像が浮かびあがった。
 叩き壊されるビル、ペチャンコにされる列車、崩落させられる住宅街。
「キャア」
 隼人は悲鳴をあげたが、しかし、それらはテレビでみる事件のように遠い町のこと
で、自分が対処しなければという気は湧きあがらない。

「隼人ちゃん、これを見て。」
 クロームはチェアリングを組んで作った人形を、隼人の目の前で揺らした。
「これはあなたの大事な人。一番大好きな人だよ。」
 ユラン。
 ユラン。
 クロームの見せる幻覚の中で、綱吉が隼人に笑いかけている。その笑顔を見る度
に、隼人の胸は温かなものでいっぱいになる。
 ユラン。
 プチン。
「キャァー!」
 クロームの手が、人形の右足を引き抜いていた。
 ユラン。
 プチン。
 次に左手を外す。
「ギャーー!!」
 ユラン。
 プチン。 
 次にクロームは、人形の胴体にあたるリングを引き抜こうとした。
「ヤメロォッ!!!」
 その瞬間だった。
 隼人は幻覚による金縛りを解いて、両手でクロームに掴みかかった。

「きゃっ。」
 クロームは咄嗟に身体を引いて隼人の手を避けたが、子どもの薄い爪が腕を掠め
た。
「大丈夫か!?」
「隼人!」
 異変を察知したリボーンと綱吉が飛んできた。

「あっああっ。」
 嗚咽する隼人を綱吉が抱きしめる。
「何があった?」
 リボーンはクロームの腕にできた傷を観察した。
「隼人ちゃん、凄い。わたしの幻覚を解いたよ。」
「それだけじゃねえな。」
 クロームの腕には水ぶくれができていた。
「オレは確かに赤い炎を見たぞ。」


「隼人、死ぬ気の炎を出したぞ。」
 その晩、リボーンと綱吉とクロームの3人は協議の結果、隼人はリングもなしに、
小さいとはいえ、嵐の属性の炎を出したのだと結論した。
「じゃあ、魔法を使えるようになったわけじゃないんだ!?」
 綱吉が叫びをあげると、リボーンがその頭を叩いた。
「痛てっ。」
「隼人が起きる。大声あげんな。」
「ボス、やっぱり魔法を教えるのは、私には無理だと思います。」
 クロームの言葉に綱吉が顔を上げた。
「うん。無理言ってごめんね。でも君のお陰で助かったよ。」
 3人は、隼人に嵐の属性のリングを持たせておくことを決めた。


「隼人、コレ、首に下げてろ。お守りだから何があっても、絶対に外すんじゃねえ
ぞ。」
 翌朝、リボーンが隼人に渡したリングを見て、綱吉は驚いた。
 てっきりCランク、よくてBランクぐらいの指輪かと思いきや、それは話には聞いて
はいても綱吉も初めて見るボンゴレリングだった。
「ちょっと、リボーン。」
 リボーンは隼人の首に、チェーンの長さを調節してやりながら応えた。
「後でだ。」
「ありがとう。リボーン。」
 嬉しそうな顔をしてリングを見つめてから、隼人は大切そうにそれを服の中にしま
った。

 隼人が小学校へ出た後、リボーンは綱吉に言った。
「9代目が健在の今、リング争奪戦はまだ先の話だ。今のところ、うちの嵐の守護者
は空席だしな。それに、どんなにいいもんも、使わなけりゃ宝の持ち腐れだ。」
「リボーン、隼人には甘々だよね。」
「おめえには負けねえぞ。」
「それって、偉ばって言うことなの!?」



 隼人が初めてリカルカに変身したのは、その日だった。
 下校中、並盛商店街に寄って文房具屋でノートを買った後、隼人は凄まじい騒音に
巻き込まれた。
 ドスン、ドスン。
「ゾ、ゾウだ、ゾウが出たぞおー!」
 商店街の一角で悲鳴が上がっている。
「店が、店が踏み潰されてくぞ!」
 砂埃を立ててゾウの群れが歩きまわり、買い物客や店の者らが右往左往に逃げ惑っ
ていた。
「きゃー!助けてえ!」
 一際、鋭い叫び声に顔を向けて見れば、八百屋の店先並んだバナナにゾウが殺到し
ている。

「あっ。」
 隼人は気づいた。今こそ自分の出番だ。
 魔法のステッキは失くしてしまったけれど、自分が町や大切な人を守らなければな
らないのだという自覚が沸き起こる。
 その時、隼人の体内に赤い嵐が吹き荒れた。
 高気圧低気圧上昇気流。成層圏まで届くハリケーン。
「わわっ。」
 気づいた時には、水色のワンピースを着て立っていた。変身したのだ。
 普段より目線が高くなっていて、重心が違う。鏡で自分の姿を確認したい気もする
が、今はそれどころではない。
 隼人はランドセルを下ろして、昨夜クロームから貰ったチェアリングを取り出した。
 チャラン。
 なんとなくできそうな気がしたので、手に集中してみるとプラスチックのリングは
隼人の手の中でダイナマイトに変化した。
「やったぜ。」
 ダイナマイトを両手の指に挟んで走り出る。
「果てろ!!」
 隼人はゾウを目がけて、ダイナマイトを連投した。
 的が大きいので外すことはない。
 隼人がイメージするダイナマイトの威力が大したことがないために、いくら投げて
もゾウの体に致命的なダメージを与えることはできなかったが、数頭が脚を痛めて地
面に座りこんでいた。
 しかし、総体としてのゾウの群れは攻撃のために殺気立って、隼人を取り囲みはじ
めていた。
 パシャッ。
 ゾウの鼻が隼人の頭の上から、バケツの水をこぼした。
「ワァッ。」
 魔法なのか幻覚なのか、隼人のダイナマイトはどちらにしろ水で消えるモノではな
いのに、火は水に弱いという先入観があって、ダイナマイトの導火線の火がシュルシ
ュルと消えてしまう。
「チッ。」
 ゾウの群れの輪が隼人に迫る。
 踏みつぶされる、そう思って目を瞑った瞬間だった。

「群れた草食動物は嫌いだ。咬み殺すよ。」

 セーラー服の少女が、隼人とゾウの群れの間に立っていた。

「パオーン!!」
 少女は両手に持ったトンファーから繰り出す鋭い打撃と、長い手足を利用した足蹴
りを武器に、的確にゾウの目を攻撃していく。
 あまりにも華麗で苛烈な戦闘に、隼人は少女から目を離すことができなかった。
 やがて、目を打たれたゾウが苦しみの声をあげて、ズシンズシンと重い地響きを立
てて倒れていく。

「君、踏みつぶされたくなかったら、どっか行ったら。」
 少女の声に、隼人は我に返った。
 ダイナマイトに再び火がついた。
「オイ、どこの誰だか知らねえが、それはオレの獲物だ。横取りすんじゃねえ。」
 そう言うや、ゾウの目にむけてダイナマイト投げつけた。
 次々に耳をつんざくような爆音が響く。
「ワオ。君、面白いね。」
 少女は一際大きなゾウの頭の上で攻撃の手を止めた。見渡す限りではソレが動い
ている最後のゾウだった。
「それにしても、君、凄い言葉使いだね。」
「うるせえ、よけいなお世話だ!」
 隼人は少女の乗った巨ゾウの右目を目がけて、ダイナマイトを投げつけた。
 ヒラリ。
 少女のスカートが翻った。
 ダイナマイトと同時に、ゾウの左目にトンファー攻撃を入れる。
「可愛い顔してるのにね。」
 フワッ。
 そして少女は、隼人の真後ろに着地した。

 ドオーン。
 巨象が倒れる音が轟くのと同時に、少女は隼人の身体をトンファーで拘束した。少
女は隼人より、10センチほど身長が高かった。
 隼人の胸の前に左右のトンファーが交差する。
「動いたら、咬み殺すよ。」
 一方のトンファーの先が動いて、ワンピースの上から隼人の胸の先端を突いた。
「キャッ。」
「声も可愛いね。ねえ、名前教えてよ。」
 少女はそう言いながら、隼人の左耳をくすぐるように舌先で舐めた。
「ヒァッ。言うかっ!」
 少女はトンファーをセーラー服の袖の中におさめると、両手で確かめるように隼人
の胸を包みこんだ。
「小さいな。ねえ、君、何歳なの?」
 少女の手が隼人の胸を撫でまわす。

「ヤメロ!そう言う、お前こそ誰なんだよっ?」
 次第に胸を押しつぶすように揉みしだかれて、隼人は悔しさで涙が出そうになるの
を堪えた。
 義兄たちにも胸など触られたことはないのに、今、自分は見ず知らずの年上の少女
に胸をすきに弄られている。

「僕?・・・・そうだね、僕はリカちゃん。リカルカのリカ。」
 リカと名乗った少女は、腕の中で隼人の身体を回転させた。
「それなら、君はルカちゃんだね。」
 唇に笑いを湛え、隼人の顔を見下ろす。
「これからよろしくね。」
 そして、隼人の唇に自分の唇を押しあてた。
 隼人は驚愕で目を見開いて、衝動的に少女を押しのけた。

「動いたら、咬み殺すって言ったよね。」
 少女は再び袖から出したトンファーで隼人を打ちすえ、腹を足蹴りにして、地面に
転がした。
 暴力を受けることに慣れていない隼人は、痛みと恐れのために少女を見上げたまま
動けなくなった。そして、微かな抵抗も空しく意識が消えてなくなるまで、楽しそう
にトンファーを振るう少女の顔から目を離せなかった。



 次に隼人の記憶にあるのは、並盛中央病院のベッドの天井の模様だった。
「意識が戻ったぞ。」
「隼人、おにいちゃんだよ。わかる?」
 綱吉とリボーンの顔を見ると、隼人は決壊した川のように泣き出して、止まらなく
なってしまった。
「もう大丈夫だ。」
「ゾウさん、怖かったね?」
 義兄たちが代わる代わる隼人を抱っこしても、背を撫で宥めすかしても、隼人は怖
くてたまらなかった。
 何度目をつぶっても、頭を振ってみても、脳裏に残るリカと名乗った少女の顔の、
酷薄な視線に嬲られている気がして、いくら涙を流してみても、どうにもならなかっ
た。



「隼人、このジュース飲んで。」
 最終的に、リボーンと綱吉は処方された精神安定剤を飲ませて、隼人を寝かしつけ
た。
 幸い、隼人の怪我は打ち身と切り傷の軽傷のみで、念のために今晩だけ入院し、明
日には家に帰れることになっている。しかし、身体よりも心の傷も方が深かった。

「ゾウの群れは倒せたし、相方にも会えたみたいなのに。どうしたんだろうね?」
 綱吉は濡れタオルで、隼人の顔を拭ってやった。
「その相方が、問題みてえだな。」
 ゾウ騒動が終わった後、商店街にはゾウの姿はなく、踏み壊されたはずの商店も元
通りに直っていた。事件の痕跡はどこにも無い。リカルカの相方が、ステッキで魔法
を使ったとしか考えられなかった。
 それなのに、隼人の軽傷だけ残しておくのが、相当意地が悪い。

「どんな子なんだろう、その子?隼人と仲良くできたらいいね。」
 最低1本、ステッキは並盛町のどこかにいる少女が持っているのが確認できたこと
で、綱吉は安心してしまっている。隼人はその少女の相方として接触する可能性があ
るのだから、隼人を沢田家においておく、ボンゴレ的に公然な理由ができたからだ。

「チッ。コイツを泣かせるような奴なら、許さん。」
「リボーン、なんかもう、隼人の父親の心境になってるよね。」
「うるせえ。なんなら、テメエも入院していくか?」



☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    



 巨大ミミズを倒し終わると、雲雀恭弥は1本のトンファーをフルッと振った。する
と、ミミズは普通のサイズに戻り、くねりながら校庭の花壇へと逃げて行った。


「頼む。ステッキ1本、返してくれよ。」
「やだよ。これは僕のペットが拾ってきたんだから、2本とも僕のものだ。」
「1本ありゃあ、いいじゃねえか。」
「なに?君、僕にトンファー1本で戦えっていうの?」
「それなら、最初っから魔法を使ってくれよ!!」
 戦いの後、毎度、毎度、繰り返される懇願と拒絶。

 雲雀がステッキを2本とも自分の物にしてしまっているから、隼人は魔法を使えな
い。
 雲雀はステッキを直接的な攻撃の武器として使う方を好むため、事後処理の他には
魔法を使わない。
 これが彼女たちの戦いが肉弾戦となる理由である。

 隼人は変身を解かぬまま、並中の校舎を歩いて行く雲雀の後を追った。雲雀の正体
がわからないうちは、隼人は自分の素性を明かすつもりがない。雲雀は恐ろしくSの
気が強いから、自分の名前や住所がばれたら、リカルカの魔法戦に関係なくとも、隼
人をいじめに家までやって来るかもしれない。
 幾度も共に戦いながら、2人はまだお互いの名前さえ知らなかった。

「ああ、この部屋いいね。」
 雲雀は応接室という札の下のドアを開くと、隼人の手を引いて入ってドアを閉め
た。そしてトンファーをフルッと一振りする。
「よし。これで誰も入って来れないよ。」
 雲雀は我が物顔でソファーに腰掛けた。
 
「なあ、なんでお前、魔法使えるくせに魔法で戦わないんだよ?」
 隼人は雲雀の前に立って抗議を続けた。
「魔法なんてつまらないよ。殴って叩きふせてこそ、戦闘じゃない?」
「もう、オレ、なんでこんな奴とコンビなんだろう!」
「フフ。」
 雲雀は隼人のスカートに手を伸ばした。
「君が戦ってる時、スカートがピラピラまくれて、太腿の皮膚が見えるの好きなんだ
よね。」
「エッチ!」
 隼人は飛び下がろうとしたが、雲雀の両手が腰に回されていて、身動きが取れなく
なっている。そして雲雀はあっと言う間に、セーラーのスカーフで隼人の手を後ろ手に
縛ってしまった。
「エッチ?ねえ、君、本当は何歳なの?」
 雲雀は隼人をソファーに押し倒した。隼人の両手を身体の下に敷きこんで、体重を
かける。
「言わない!」
 勝手にルカと命名した相方の少女は、見た目は中学生なのに、それにしては言動が
幼いところがある。中1か小6ぐらいなのかなと雲雀は思う。
「エッチって、こういうことを言うんだよ。」
 雲雀は隼人の唇にキスをしながら、短いスカートをまくりあげた。
「やだっ!やめろ!」
 隼人が泣きそうな声を上げるのが楽しい。
 雲雀は薄笑みを浮かべて、下着の上から隼人の割れ目を撫でた。
「まだ毛も生えてないね。ねえ、本当の君は何歳なの?言ってよ。」
 雲雀は足の側から下着に指を差しこんで、隼人の秘部をじかに刺激した。
「やああああん。」
「可愛いけど、色気はないよね。毎回揉んでるのに胸も大きくならないし。」
 雲雀は隼人の処女の襞を指の先でつつき遊んだ。
「濡れてきたよ。動いたら、咬み殺すからね。」
 雲雀は隼人の身体を見たくなって、ソファから立ちあがると、ワンピースをまくり
あげて、スカートの裾を隼人の口に咬ませた。
 年齢を訊くつもりだったが、もう必要がない。
「これウサギさん柄?」
 スルリと脱がせた下着に、Hayato.Sと刺繍がしてあった。これだけわかれば素性を
洗うのは簡単だろう。
「ハヤトちゃん?」
 雲雀がヒラヒラ振って見せる。
 この時ばかりは、隼人は過保護な義兄達を恨んだ。

「うぅっ。」
 動いたら咬み殺される。動かなくてもきっと酷いことをされる。
 怪我をして帰ると義兄たちはいつも悲しそうな顔をするから、隼人は酷いことをさ
れる方を選んだ。

「ハヤト、今日、僕が君に何をしたのかちゃんと覚えておくんだよ。」

 その日、隼人は雲雀に乳首をつねられねぶられた。
 秘部を舌で舐めあげられるのは初めてで、濡れた感触におぞましさと快感を覚えて
背筋を震わせた。
 快感に泣いて身をよじる隼人の反応をつまらなく思ったのか、雲雀は乾いた後孔に
指を差しこんで遊びだしてしまって、隼人は最終的には痛みに喘いで泣いた。

「君は僕のお人形。」




☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    




 その夜の沢田家。
「リボーン、そんなところでどうしたの?」
「風呂一緒に入ろうと言ったら、隼人に嫌がられた。」
「アハハ。父親離れしたい年頃じゃない?」
「笑いごとじゃねえ、あいつパンツ履いて無かったぞ。」
「・・・・・・・?」
「相方の野郎、見つけ次第、ぶっ殺してやる。」





end.

2009/04/05

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