ボンゴリアン猫祭  

 

 

その一

 ベルギーはフランダース地方、イーペルの町では、3年に一度猫祭が開催される。

「今年はイーペルでやんねーから、今からここでボンゴレ式猫祭をやるぞ。」
 昼休み、屋上で昼食をとっていたツナ、獄寺、山本の前に、突如として現れたリボーンが宣言す
る。リボーンの帽子のつばには黒いネコ耳がのっている。

 平成22222日、にゃんにゃんにゃんにゃんにゃんこの日。今日という日に何かをせねばと、
リボーンも考えたらしい。

 ツナはリボーン主催のボンゴリアン行事なんてごめんこうむりたい気持ちでいっぱいだ。大体午
後だって授業がある。だが、猫祭自体に馴染みがなくていまいち突っ込みづらかった。

「猫祭って何するんだよ?」
「たった今、並中の校舎中に猫のぬいぐるみを100個を隠してきた。5時までに一番多く見つけたも
んが勝ちだ。」
 リボーンのネコ耳がぴくぴく動く。 

「なんだ。そんなことか。」
 安堵したツナがよくできた耳だなーと見ていると、キョロリ。目があった。カメレオンのレオンだ。
「楽しそうなのな。」
 屈んだ山本がちょいちょいレオンをつつく。

「リボーンさん、ぬいぐるみはどんなモノですか?」
 獄寺一人、冷静にゲームのルールを確認する。
「いい質問だ。こんなんだぞ。」
 するとレオンが変化した。白くて二頭身、猫と言ってもかなりデフォルメされている。片耳に大きな
リボンをつけたその名も。
「キティだぞ。」 
 ぬいぐるみのレオンは獄寺の手にわたる。

「エーーーー!!!それじゃ、どれがオマエが隠したのかわからないじゃないか!」
「女子がよく鞄につけてるのな。」
 リボーンは立ち上がる山本の肩に飛び乗る。
5時までに全部揃えねえと、爆発するぞ。しっかり探せ。チャオ。」
 そう言うとリボーンは山本の肩から手すりに移り、屋上から飛び降りる。叫ぶ間もなく、猫型パラシ
ュートが広がりゆっくり降下して行く。
 
「一番大事なこと、言い捨てて行くなよーーー!!」

 

 

その二

「まず確認しましょう。第一に、このサイズではそう多くの火薬は入りませんから、万一爆発したとし
ても大した規模にはなりません。」
 獄寺がレオン=キティの大きさを測りながら言う。

「大した規模じゃねえって、どのくらいなんだ?」
 山本は獄寺の手の中のレオン=キティをちょいと触った。ちゃんとぬいぐるみの感触がする。
 キョロリ。レオンが山本を見る。
「ミニボムの半分程度だ。鞄にぶらさげていたとすれば、鞄が吹っ飛ぶくらいだな。」
「なんだ。その程度なのな。」

「だめじゃないか、それじゃーー!」
 ツナは頭を抱えた。マフィアの世界では大したことがなくたって、鞄や鞄の中身が爆破されたら、
普通の中学生はとっても困るのだ。
 こういう時、共感してくれる友人がいたらいいのにとツナは思う。獄寺に一般人の感覚を求める
のは無駄だが、運動神経に秀でた身体一つで生きていける山本にもそれがない。

「今日はもう午後の授業をサボって、鞄を見てまわるしかないのな。」
 案外楽しそうな顔の山本。この中で、ちょっと鞄見せてなんて女子に言えて、見せてもらえるの
は山本だけだ。

「第二に、火薬が入っていれば、普通のぬいぐるみより相当重い。しっかり探せ、山本!」
「りょーかい。任せとけ。」
 偉そうに言う獄寺に山本は不満も漏らさない。指揮官の指示が適切ならば従うというより、山本は
獄寺に頼られたいのだろうなとツナは思う。山本はバッターボックスに入る前にするようにコキコキと
首を回し、そして走って行った。

「じゅーだいめぇ。山本がいなくなったんで言いますね。オレ、いい考えがあるんです。」
 獄寺は冷静な右腕の顔をかなぐり捨てた。にゃーん。ネズミを捕って持ってきて、ほめてほめて
と言う猫の顔。

「ええっ!どうやってぬいぐるみを見つけるの?」
「あのですねえ・・・・・・・・」

 

 

その三

「あのですねえ、下校時刻になる前に、スプリンクラーを作動させちまいましょう。」
 獄寺の出した案は、乱暴だが確かに有効な手だ。
「そおか。なるほどね。」
 一瞬、ツナは獄寺に同意しかけるが、何かが引っ掛かる。
「この程度の量の火薬なら水に濡れれば着火しませんし、山本もびしょ濡れです!」

「なんで、山本まで濡らす必要があるんだよ!」
 そうだここに引っ掛かったんだ。ツナは思う。スプリンクラーを作動させるなら、山本を下に行かせ
ることはなかった。いちいち爆弾入りキティを探す必要はないのだから。

「生徒の安全をとるなら、ボンゴリアン勝負にならないからです。せめて山本を濡れ鼠にしましょう。
猫祭で鼠になったら、奴が負けです!」

 うまいこと言った気でいる獄寺に、ツナはどうしてやろうか考える。勝負を捨てて生徒達の安全を
選択するというのは、ツナの理に適っている。しかし、仲間を切り捨てる行為は許せない。獄寺に
頼りにされていると信じ、喜び勇んで出かけた山本が哀れだ。

 ツナは獄寺ににっこりと笑ってみせる。
「だめだよ、獄寺君。山本が降りてから10分ぐらい経ってる。もうキティを見つけているかもしれない
よ。そしたら、山本の一人勝ちだ。」
「あっ。」
 獄寺がぽかんと口を開ける。確かにツナの言うとおり、スプリンクラーが作動すれば何もかもおじゃ
んという訳ではない。勝負は生きている。獄寺はしゅんとうなだれる。

「獄寺君、お願いなんだけど、ひとっ走りおつかいに行ってきてよ。」
 ツナは獄寺の耳に口を寄せ、ごにょごにょと何事かを囁く。次第に獄寺の表情が明るくなる。
「さすが十代目です。オレ、そんなこと考えつきませんでした!」
 獄寺の目にたたえられる崇敬の念。
「話はいいから行ってきてよ。レオンは預かっておくから。」
「はい!行ってまいります!」

 獄寺が走って行けば、残るはツナとレオン=キティばかり。
「人払いするのが遅いよ、沢田綱吉。」
 ではなかった。給水塔の上からヒラリと黒い影が落ちる。
「それにさっきのなに?隼人に近寄りすぎだよ。」
 トンファーを構えた雲雀恭弥がツナにつめ寄ってきた。

 レオン=キティを撫でながらツナは余裕の態度だ。
「獄寺君に言ってもいいんですよ。雲雀さんが毎日そこから獄寺君のランチタイムを覗き見してい
るって。」

 

 

その四

『ただ今より、一斉持ち物検査を開始する。授業を中断し風紀委員の指示に従って欲しい。これを
妨害するものは風紀委員会に対して害意あるものとみなし、ただちに制裁を加える。繰り返す。た
だ今より・・・・・。』

 午後の授業中、校内放送に風紀委員会副委員長の草壁の声が流れると同時に、ガラッと引き戸
が開き、がたいのいい風紀委員らが侵入する。教師達はチョークを持ったまま困惑の表情を浮か
べ、生徒達は何事かと顔を見合わせながら教科書を閉じる。

「お。ツナのやつすげーの。雲雀を味方につけたんだ。」
 下級生の教室に紛れ込んで、女子の鞄を見せてもらっていた山本がぴゅーと口笛を吹く。
「校内で爆発が起こったら、一番怒るのは雲雀なのな。」
 山本は見つけたキティ爆弾をポケットにしまうと、匍匐前進の姿勢で風紀委員の目を盗み、教室
を後にした。

「じゅーだいめぇ、買って来ましたあ!」
「獄寺、こんだけしか見つかんなかったー。」
 屋上への出口は二つある。二つの扉から、獄寺と山本がほぼ同時に飛び出してきた。獄寺の手
にはファンシーな絵柄の紙袋。女の子なら知っている、ちっちゃなノベルティがついたあのお店の。

「おかえり、二人とも。」
 ツナはのん気に、手の中のレオンを良い子良い子とあやしながら、屋上でひなたぼっこをして2
人の帰りを待っていた。

「なんだ、山本!テメエはちゃんと下でキティを探してろ!」
 校外から戻ってきたばかりの獄寺は、雲雀が持ち物検査と称してキティ爆弾を捜索していること
を知らない。

「んーでも。こんだけ見つけたのな。」
 山本が差し出したキティ爆弾は15個。
「よーし、よくやった山本。もう一回下に下りてもっとよく探せ。」
 獄寺は山本を速やかに屋上から遠ざけたい。
 ツナの指示で買ってきたサンリオの紙袋の中のキティは100個。15個はどこかに隠し、85個はあ
らかじめ水に濡らし、山本が階下にいるのを見計らって、スプリンクラーを作動させなければなら
ない。

「獄寺君。お疲れ。でももう大丈夫なんだ。雲雀さんが手伝ってくれてるから。」
 ポンポンと獄寺の肩を叩くツナに、獄寺は目を丸くした。




その五


「爆発物の捜索と処理は雲雀さんから風紀委員会でやるって言ってくれたんだけど、5時までに全
部揃えれば爆発しないから、処理はしないでって頼んだんだ。」
 ツナの言葉に獄寺は唖然とするばかり。

「それでね、ボンゴリアン勝負なんて無駄だから、4人で25個づつ等分にしましょうってお願いした
んだよ。獄寺君と山本とオレの3人だと割り切れないけど、雲雀さんが入れば引き分けにできる。」
 ツナだって、たまにはリボーンに一泡吹かせたい。ボンゴリアンなんとかはもうたくさんなのだ。今回
100なんて割り切れやすい数を選んだ、リボーンが負け。

「ええーーー!!」
 思わず叫ぶ獄寺に、山本も近づいて来てスルスルと背を撫でる。

「ちょっとそこの草食動物達、隼人に群がりすぎだよ。」
 不穏な空気を纏わせた雲雀が獄寺の視野に入った。トンファーを手に剣呑な目つきでジリジリと近
寄ってくる。

「雲雀さん、もうちょっと待ってください。あと少しですから。」
 ツナの手の中のレオンは、再びネコ耳型に変化している。ただし、リボーンの帽子の上にいた
とは色が違う。

「獄寺君、それでね。雲雀さんに協力をお願いする代わりに、今日の夜の12時まで、君は雲雀さんの
飼い猫になることになってるんだ。」
 ツナから決定事項として聞かされる己の運命に獄寺は青ざめる。
「山本、獄寺君が動かないように抑えてて。」
「止めろ!離せ山本!」

 レオン=ネコ耳がツナの手から獄寺の頭に飛び移ると、獄寺の髪色と違和感なく一体化する。山本
が獄寺を羽交い絞めにしている間に、ツナは鈴とチェーンのついた首輪を獄寺の首に巻きつける。

「じゅーだいめー。」
 ぺたんと屋上の床に座り込んでしまった獄寺の鎖を、ツナは雲雀に渡した。獄寺があんまり哀れな様
子なので、一言釘をさすのも忘れない。
「酷い事したり、12時までに返さなかったりしたら、あのこと獄寺君に言いますよ。」
 雲雀は口をつぐんだままツナを睨む。


「僕達の猫祭は今からスタートだよ、隼人。」
「はやく終わってくれにゃー!」

2010/02/22

 これでもちゃんとできている1859のつもりで書いている。

 

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