菜の花畑でつかまえて

 

 ある時、獄寺は菜の花畑で人を殺した。
 血はほとんどが土に吸い取られ、黄色に赤色が重なることはなかったけれど、それ以来菜の花を見
ると気分が悪くなる。
 殺害したのは10代目を狙うヒットマンの一人だったから、罪悪感を覚える必要は無いとわかっている
のだが、多分、黄色のイメージと赤色のイメージが、強烈過ぎて、他のイメージを上書きできないのだ
ろうと獄寺は思っている。

「・・・・というわけで、新しいイメージを頭に焼き付けようと、ここでこうしてた。」

 ここは並中の校舎のはずれ、体験学習菜園の中の一角。
 菜の花の花壇の中から、白い煙が上がっているのを不審に思った風紀委員長、雲雀恭弥が覗いて
みると、獄寺隼人が煙草を吸っていた。
 菜の花の枝を縫って突きつけられたトンファーによって、くわえた煙草を落とされた後に悪びれもせず
言い訳したのが、上記である。

 雲雀は黄色の花陰で、改めて煙草に火をつけようとする、銀髪の頭を見る。
「・・・君、頭おかしいね?」
 きれいな姿とまともな頭脳を持っていても、その毛細血管のすみずみにまで、荒廃した血液が流れ
ているのだろう彼には、と雲雀は思う。 
 人を殺した、トラウマが、と自分に言うのもおかしいが、先ほどから獄寺は、じっとり湿った視線を自
分に送ってくるのだ。

「おかしかねえよ。」
 ふうと大きく吸い込み、口を開けて白い煙をふうと吐き出す。
「ほら。黄色に白。新たなイメージの刷り込みによって、過去の精神的ダメージを修復しようと、涙ぐま
しい努力をしているんだ。」
 また、獄寺は雲雀に視点を合わせてきた。
 雲雀と視線を合わせようとするわけではなく、雲雀の全体像を視覚におさめ、焼き付けようとしてい
る。

「黄色と黒?」
 雲雀は口に出した。
「危険信号?勝手に僕を君の脳内パレットに格納しないで欲しいな。」
 雲雀はトンファーで獄寺の頬をついた。
「気分悪いから。」

「げええ。」
 タバコが消し飛ぶ。獄寺は片手で頬を抑えて横を向く。

「銀色に黄色。」
 おかげでこちらも、変な取り合わせが刷り込まれるじゃないかと雲雀は思う。
 ただ、口で言うより見る方がまともだ。
 ヘルシーな黄色の中に、風に揺れ流れるシルバーブロンド。

「春になるとおかしい人が増える。そんなイメージかな。」

「おかしいのはそっちだろっ。このファシスト!」
 けほけほむせながら獄寺が言う。

「ほう。面白いこと言うね。この口は。」
 雲雀は獄寺の顔をトンファーでついた。

「ファシスト!強権政治!」
 獄寺が声を上げる。

 ああ、この子、今日は本気で僕にぐちゃぐちゃにされたいんだ。
 精神的ダメージの修復だかに使いたいんだ。この僕を。

「つまらないな。」
 雲雀はトンファーをぽんと両手から離した。土の上に散る2本の棒。

 そして、雲雀はすとんと獄寺の隣に座った。
 二人の肩が微かに触れ合う。

「・・・・何のつもりだ?」
 獄寺が不審げに眉を寄せて雲雀を見る。

「ごらんよ。ちょうちょ。」

 雲雀は片手を上げた。
 

 黄色の間に白が舞う。
 踊る。
 
 風が吹けば揺れる菜の花。
 流れる白。
 
 花に蝶。

 はるうららか。
  

「黄色と白。」
 
 雲雀の指に白がとまる。

 こっちを使えば。
 なんたって、春なんだから。

 

2009/03/09

リクエスト 何か春っぽいテーマ 

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