LOST

 


「ヒバリー、コーヒーいるかー?」
「角砂糖5つ。クリームたっぷり。」
 と、いうことはいるんだな。
 つうか、すっげー甘党。もしかして、コーヒー飲めない?
「ホットミルクにするか?」
「そっちはバニラビーンズを入れて。」
 
 獄寺がいそいそとドリンクとつまみを用意するのをよそに、雲雀はソファに掛けて、テレビのリモコン
をぽちぽち触っている。
 女王様かよ、おい。
 つっこみたくなる獄寺だが、怖くてできない。
 自分の分のブラックコーヒー、雲雀のためのコーヒーミルクとホットミルク、皿にあけたポテトチップス
をトレーに載せて運ぶと、雲雀はDVDプレーヤーにレンタルビデオ屋から借りてきたばかりのソフトを
入れるところだった。

「・・・おい、オレは1巻は観たぞ。」
「僕はまだ。」
「なんだ、それならおまえは1巻だけ借りりゃあよかっただろ。」
「続けて2巻を観るからね。」

 招かれざる客、雲雀が獄寺の家に来てしまったきっかけは、そのDVDにある、と獄寺は考えてい
る。

 先ほど、街のレンタルビデオショップでお目当てのアメリカのTVシリーズに伸ばした獄寺の手と雲雀
の手がぶつかった。
 獄寺は驚いたものの、自分の手の方が下にあることを確認する。
 よし。優先権はオレにある。
 雲雀が手を引けばいいだけのことだ。

 しかし。
「僕はこれを借りるよ。」
 雲雀はDVD(の空箱)を掴んだ獄寺の手を、固く握ったまま言い放つ。
「これを貸して。」
 痛いほどに力強く握る雲雀の手が熱い。
 ああ。やばい。
 飼い猫程度にしか発達していない獄寺の野生の本能が、やめやめやめよと注意信号を送ってくる。

 悔しいなあ。でもたかがDVD程度で乱闘騒ぎを起こすのも大人げない。
 次にすりゃいい。他の借りて帰ろう。

「じゃあ、譲ってや・・」
 獄寺が言いかけると。
「獄寺隼人、君の家はここから近いね?」
 雲雀が口をあけた。
「近いっすけど?」
 なんだ?一体。なんの話だ。
「君の家に行こう。」
 雲雀は一人で納得し、握った獄寺の手ごとレジへと移動する。
「お。わっ。わ。」
 斜め歩きになった獄寺は、棚にぶつかりそうで結構危険。


「静かにしなよ、聞こえない。」
 既に見終えた1巻の再生される間、獄寺はぶーたれていた。
「咬み殺すよ。」
 パリン。チップスをかじる。
 
 仕方ねえ。今のうちに寝る準備しておくか。
 借りてきた5巻全部を観終えたら朝方だ。途中で寝ちまうかもしれないし。
 ん?ヒバリにも寝巻きを貸すべきか?
「ヒバリー、終えたらすぐ帰るか?寝てくかー?」
「・・・寝ていく。」

 1巻が終わるまでにと、獄寺はいそいそと働いた。
 パジャマよし。毛布よし。

「1巻、終わった。」
 ふわとあくびをしながら、雲雀が獄寺を呼び寄せる。
「2巻を入れたら。」
 はいはい。女王様。
 獄寺が喜び勇んで2巻を見始めると、雲雀はこっくりこっくりと居眠りをしだす。
「・・・見たかったんじゃねえのかよ。」
 口に出して言ってはみたものの、雲雀はソファに背を預けたまますーすー寝息をたてている。
「ま、いっか。気楽だし。」
 獄寺は雲雀に毛布を掛けると、冷めたコーヒーを口にした。


「ヒバリー、これ自分の家で観ろ。」 
 獄寺は大あくびをしながら、きちんと揃えて袋に入れたDVDを雲雀の前の床に置く。 
 もう、獄寺はやばいほど眠い。
 自分ひとりなら途中で眠ってしまっているところだが、すぐに寝てしまった雲雀に対する当てつけの
気持から睡魔と健闘した。
 でも、きっとストーリーは頭に入っていない。

「終わった。終わった。」
 獄寺はとん。崩れ折れるように床に頭をつける。眠い。ねむい。あ、外が明るい。
 パジャマに着替えておいてよかった。

 スイッチの切れた獄寺と対照的に雲雀の両目がぱちんと開く。
 雲雀型睡眠ってご存知?朝方人間さんのこと。

「終わっていないよ。」

 雲雀は獄寺の手を掴んだ。

「始まってもいない。」

 獄寺の手が痛むほどに力強く握る、雲雀の手。

「僕はこれを借りたんだから。」

 熱い。

 

2009/03/08

 

リクエスト 獄寺の家でお泊まりする雲獄

 

 

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