吸血鬼

 

 

「100倍にしてかえすよ。」


 ツナがヒバリンを退治すると、ゴクデラはヒバリンを縄で縛りあげることにしました。
しかし、長い紐を見るとじゃれつきたい欲求が高まって、なかなか上手くいきません。
ようやくぐるぐる巻きにしたところで油断して、うっかりヒバリンの顔の前に傷のある腕
をさらしてしまいました。
 ペロ。
 ヒバリンはゴクデラの傷に舌を這わせました。血を舐め取ったのです。
「変わった味。そうだ。半分ネコの血だ。」
 血液を摂取して力を取り戻したヒバリンは、背からコウモリの翼を生やす勢いで縄
を吹き飛ばして、飛んで行ってしまいました。
 ゴクデラはへたりと膝をつきました。
「心配には及びませぬ。あれだけ痛めつけておいたのですから、当分悪さはできま
すまい。」
 いつもはきついリボじいにそう慰められるまで、ゴクデラはただただ呆然とするばかり
でした。

 ツナがヒバリンを討ち負かし、ヒバリンが城を出て行ったことが知れ渡ると、町はお
祭り騒ぎになりました。ヒバリン城の貯蔵庫からココナッツジュースや椰子酒、ココナッ
ツシュガーのお菓子が運び出されて振舞われ、ツナ達は町の人々からあつい歓待を受
けました。
 明日からはドッペルゲンガーのビャクラン退治の旅に出ると言い出したリボじいも、今
日は町に宿を取ることを認めたので、野宿続きだった仲間達は久しぶりにベッドで休む
ことができました。

 ゴリッ。ゴリッ。
 その夜、ゴクデラは不審な音を聞きつけて目を覚ましました。ツナやリボじい達はぐっ
すりと眠っています。耳のいいゴクデラだけにしか聞こえない、微かな音でした。
(何の音だ?)
 ザッ。ザッ。夜風に木の葉が揺れる音にまぎれて、ゴリッっと何かが削られるような
音がします。初めて聞く音ですが、背筋に寒気が走りました。
「じゅう、」
 ゴクデラはツナを起こしかけましたが、ツナの顔にヒバリンと戦った時の傷を見つけて
手を止めました。
(オレはヒバリン退治でご迷惑をおかけこそすれ、何のお役にも立てなかった。ここで
騒ぎ立てて何でもなかったなんてことになったら、余計にダメな奴だと思われちまうかも
しれない。)

 ゴクデラは一人で宿を後にしました。
 昼間は騒がしかった町は、今は静まり返っています。あいにくの曇り空で星ひとつ
見えませんが、ネコの目を持つゴクデラに不自由はありませんでした。
(考えてみれば、これはチャンスだ。もし変な怪物がおかしなまねをしてたら、とっ捕ま
えて十代目のところに連れて行って、オレの能力を見直していただこう。)
 ゴクデラはネコ耳を立てて音のする方へ向かいました。

 ザザッ。ザッ。
 ココナッツの木の葉が風に揺れる音の中で、徐々にゴリッという音が大きくなります。
(近づいてるぞ。)
 ザッ。
 ゴクデラは注意深く風下にまわりました。すると覚えのあるにおいがしてきます。
(これは・・・・・ヒバリンだっ!)
 ヒバリンに血を舐められた傷に残されたにおいと同じでした。
 ゴリッ。ゴリッ。
(そうか。これはヒバリンがココナッツの木から実を落とす音だったのか。長い棒でも振
って、枝を叩いているんだ。)
 ゴクデラは息を殺して進み、音に近づきます。
 ゴリッ。
 音が間近に迫ってきて、ゴクデラは木の陰に潜んでヒバリンの様子を伺いました。
(!)
 ゴクデラは思いも寄らない光景に、唖然としてしまいました。ヒバリンは鋭い牙をココナ
ッツの木の幹に突きたてて、直にかじりついていたのです。ヒバリンの牙がココナッツの木
の幹に当たる度に、ゴリッという音が響きます。
 ザッ。
 ココナッツの木の葉が散り落ちました。見る見るうちに樹液と生気を吸い尽くされた木は、
葉を散らし幹はカラカラに干からびていきます。ヒバリンの向こうには、無残に枯れ果てた
森が広がっていました。
(なんてことしやがるんだ。ココナツを収穫できなくなっちまうっ。)
 ゴクデラは身体のバネでひとっ跳びにヒバリンに飛びかかります。
「誰?」
 ゴクデラの爪が触れる寸前に、ヒバリンはバッとコウモリの翼を広げ、ココナッツの木の上
に飛び移りました。
「畜生っ!今度は逃がさねえっ!」
 ゴクデラも負けてはいません。爪を立ててココナッツの木を駆け上ります。
「なんだ。昼間の怪物つかいの飼いネコか。さっきはご馳走様。キミの血のおかげで助かっ
たよ。」
 ヒバリンはココナッツの実を摘み取ると、ゴクデラに投げつけました。
 ゴーン。
「ニャッ!」
 堅い実を頭に命中させられたゴクデラは、バランスを崩して真っ逆さまに落下します。
「だけど、ボクは食事を邪魔されるのは嫌いだよ。」
 クルン。
 タッ。
 ゴクデラは宙で一回転して足から地面に降り立ちましたが、脳震盪でふらついてしまいま
した。
 ゴーン。ゴーン。ゴーン。
 ヒバリンが情け容赦なく実を投げつけてきます。
「イテッ!イテテッ!」
 またたくまにゴクデラはココナッツの実の山の下敷きにされてしまいました。
「用事があるなら、食事が終わるまでそこで待っていれば。」
 ヒバリンは食事を再開しました。

「くそー!重てえ!」
 小一時間ほど掛かって、ようやくゴクデラはココナッツの実の間から頭を出すことができまし
た。
「やあ、久しぶり。キミもココナッツジュース飲む?」
 食事を終えたヒバリンは機嫌良くゴクデラに話しかけました。
「飲まねえよっ。ヒバリン、テメエ、ココナッツの森をそんなに枯らしちまって、いいと思ってん
のかよっ?!」
「ボクはココナッツジュースと血を吸って生きているんだ。キミがお魚を食べているのと一緒だよ。」
 ヒバリンはゴクデラの片耳を引っ張りました。
「違う!オレはテメエみたいに根絶やしにするような食い方はしねえ!」
「知らないよ。君の食べ方なんて。」
 ヒバリンはゴクデラのもう片方の耳も引っ張ります。
「ボクだって普段はココナッツの実からジュースを飲んでいるよ。だけど、キミの飼い主に負わさ
れた怪我を回復させるには、直接生気を吸った方が手っ取り早いんだよ。城に蓄えておいた非
常食の濃縮ジュースは全部キミたちに飲まれちゃったしね。」
「テメエが吸血鬼なのが悪いんだろっ!」
 ペッ。
 ゴクデラはヒバリンの顔に向かってつばを吐きました。
 ヒバリンは目を細めると、ちょうど唇にかかったゴクデラのつばを舌先で舐めとりました。
「やっぱりキミはおいしいね。ボクは血は鉄くさくてあまり好きじゃないけど、キミの血は甘かっ
たし。」
 ヒバリンは片手でゴクデラの首後ろの皮膚を摘み上げると、ネコを持つように軽々とココナッツ
の実の山から引き上げました。
「お待ちどうさま。ボクの食事を邪魔してくれた罰をあげるよ。」
 ザザッ。
「フギャッ!」
 ヒバリンはゴクデラの腹を殴りつけるとうつ伏せに倒しました。
「今日はもうお腹がいっぱいだから、血をもらうのはまた今度にしよう。」
 ヒバリンはゴクデラのズボンを膝までおろして、逆毛立ってふくらんだしっぽを引っ張りました。
「テメエ何する気だ。」
 ゴクデラは必死にヒバリンを跳ね飛ばそうとしましたが、神経の集まったしっぽをいじられて力
が入りません。そうこうするうちにヒバリンはゴクデラの上着もはだけさせて、腹や胸の皮膚をさ
わさわと撫でさすります。
「折角だから、食後の運動を兼ねて身体の味見させてもらうよ。」
「ニャフッ!」
 背後からヒバリンに耳を甘噛みされてゴクデラは鳥肌を立てました。
 ザザザッ。
 ゴクデラの抵抗などものともせず、ヒバリンはしっぽの根元の窄まりに指を突き立てました。
「そのかわり、この中にジュースを注いであげる。」
「・・・!?オレはメスじゃねえ!」
 ゴクデラはやっとヒバリがしようとしていることに気づきました。
「知らないの?異種族間でもできるんだよ。」
「止めろっ。ァッ。フニャッァン。」
 情け容赦なく内部をかきまわすヒバリンの指に、ゴクデラは痛みと異物感のあまり悲鳴を上
げました。
「力を抜かないと痛い目をみるのはキミだよ。吸い殺すつもりはないから大人しくしてなよ。」
 狭い場所を無理にグニグニといじられて、ゴクデラはぎゅっと目を瞑りました。その目じりに涙
がにじみます。
 ザッ。
 ザザザッ。
 木の葉が舞い落ちる音を聞きながら、ゴクデラはココナッツの木の幹に腕をまわしてヒバリンの
仕打ちに耐えていました。しなやかな背がびくっびくっと震えます。
「にゃっ。」
 後ろから執拗に突き動かされるうちに、ゴクデラの身体の中心は立ち上がっていました。無理
に広げられ押し込まれた上に引き出される痛みは当然あるものの、鈍く甘いものがゴクデラの中に

わきあがるのです。
「ネコのこれって、毛が生えていてふわふわしていて気持ちいいね。」
 ヒバリンは息も乱さず、片手でゴクデラの足の間の二つの玉をくすぐります。
「こっちはもうトロトロだよ。」
「ニャ・アンッ。」
 中心の先をいじられて、ゴクデラはヒバリンの手の中に精を吐き出してしまいました。その瞬間
の締めつけで、ヒバリンのものが弾け体内を熱く濡らされるのを感じました。
「キミの中をもっとボクでいっぱいにしてあげる。」
 ザッ。
 ザザザッ。
 100倍返しなんてものじゃないほど、ゴクデラはひどい目にあわされてしまいました。



 あくる朝、ゴクデラは宿のベッドの上で目を覚ましましました。仲間達のすやすやという寝息が
聞こえてきます。まだ陽はのぼったばかりです。
「あれ?」
 ザッ。夜風に揺れるココナッツの葉音が耳に残るのは、あれは夢だったのでしょうか。
「・・・悪夢か。」
 ゴクデラはほっと息をつきました。今日からはビャクラン退治の旅が始まります。早く起きして
準備をするにこしたことはありません。
「ッ。」
 立ち上がろうとしたゴクデラの身体が悲鳴を上げ、足の間にもココナッツジュースのような白い
雫が伝い落ちました。

 

 それから味をしめたヒバリンは、ビャクラン退治に旅立ったツナ達の後を追って行ったということ
です。




 おしまい。

 

 

2010/11/10

 

 自己満足的ポイント:最初から最後までちまい二頭身キャラで動かす。 

inserted by FC2 system