家光とはやとのママの話


 イタリアの中小企業で代表を務める沢田家光は、親会社の社長から長期休暇と引き換えに、<ある
もの
>を日本へ運んではもらえないかともちかけられた。前夜に入った妻からの報告に、飛んで帰り
たい思いでいた家光は、一も二もなく了解した。

 問題は<あるもの>が、イタリア男といい仲になって孕んだ、日本からの留学生だということだ。
9代目、もとい社長は、未来のある少女を親元へ帰してやりたいと言うが、少女は帰国を望んではい
ない。

「パパは堕せと言うわ。私はあの人の近くで子どもを育てたい。」
 十五のくせにいっぱしの女だった。しかも儚い外見に反して、走っている車から飛び降りて逃げよ
うとするほど思い切りがいい。すんでのところで捕まえたが、怪我をされては面倒だ。急遽関連会社
の特殊技能者に小遣いをやって、少女につけさせたGPSつきの指輪に、
<絶対指から外せない>とい
う暗示をかけさせる。

「無粋だね。ピアニストに指輪なんて。君は彼女の演奏を聞いたことがないのかい。」
 ふよふよと空中浮遊する赤ん坊が小切手を受け取る。
「ないなあ。」
 家光はぼりぼりと頭をかいた。
「忘れてはいけないことを思い出させてくれるような、そんな音を出すよ。」

 家光が成田空港から少女の親元に連絡を取ると、夫妻はともに海外へ演奏に出ており、迎えには数日
を要するという。仕方なしに家光は少女を連れて並盛へ帰ることにした。指輪をしてからはめっきり大
人しくなった少女には並盛ホテルに部屋をとり、あまり遅くまで遊び歩かないようにと注意だけして、
家へと急いだ。

「おかえりなさい。」
 突然の帰宅も妻は笑顔で迎えてくれた。
「変わらないな。」
「やだ。まだよ。」
 手でエプロンの腹のあたりをひらひらさせている。
「ありがとう、奈々。」
「どういたしまして。」
 家光が切り落とされた指を見つけるのは、それから1時間後のことだ。



(2010/01/31)

 いい題がおもいつかない。
 はやともきょうやも出てこなくてごめんなさい。

 はやとは覚えていないぐらい小さい時のことだけれど、母親のもとできょうやにも愛されて育てられ
ていて欲しい、という夢。

 はやとのママが並盛で行方をくらませるためには、家光に登場してもらう必要が生じました。マーモ
ンまで登場することになるとは。

 はやとのママと奈々は出産予定日が同じぐらい。はやとは早産でした。 inserted by FC2 system