ひなのとき
雲雀家の正門前に停車した並盛幼稚園の送迎バスから、たったったっと男の子が駆け降りてくる。真
新しい黒い制服の胸元につけた年少のしるしの黄色いバッチには、「ひばり きょうや」の文字。
先生の「さようなら」にも、迎えの者の「おかえりなさいませ」にも返事をしないで、子ども部屋へ走ってい
く。
「はーたん!」
きょうやの声に、ゆりかごの中の幼児がみどりいろの目を輝かせる。
「きょおー。」
ちいさな両手をいっぱいに広げるのは、1歳半のはやと。
髪も肌も光に透ける色をした妖精のようなはやとは、きょうやの弟ではなくて女中の子だけれど、きょうや
が片時も離さないから、いつも雲雀家のこども部屋にいる。
「今日はね。年長組の子をやっつけたよ。」
「んむー。」
きょうやはよいしょとはやとを抱き上げて、ふわふわの絨毯の上に座りこむ。きょうやの足にはさまれてあ
やされるのが、はやとは大好き。
「はやともはやく幼稚園に行こう。」
この4月からきょうやは幼稚園に通いはじめて、幼稚園に行っているあいだのはやとが心配でたまらない。
「そうしたら、いつでもいっしょだよ。」
2010/01/30
ぴったりな題がおもいつかない。