腹黒


 4月24日放課後、並中の校門の前に、ママチャリのサドルを挟んで佇む美女がいた。
「誰、あれ?」
「モデル?」
 チビTにスキニーデニムのカジュアルな装いに、ごついゴーグルがミスマッチだが、出るところは出た
スレンダーなボディを、女子も男子も称賛の視線を送りながら通り過ぎる。
 ちょうど下校するところだった山本が、獄寺をつついた。
「おい。獄寺、姉さん来てる。」
 これからいつものメンバーが竹寿司で誕生会を開き、山本を祝ってくれることになっている。獄寺が
倒れてしまったらつまらない。
「ああ。約束してんだ。」
 獄寺は軽く口を開き、ビアンキに向かって手を振った。
「珍しいのなー。」
(今、獄寺、笑ってた。)
 普段、ビアンキを避けまくっている獄寺なのに。姉弟関係が修復しつつあるのだろうか。
 獄寺にとっては喜ばしいことに違い無いのに、面白くない。山本はビアンキに嫉妬している自分に気
づいた。
(約束って、それじゃ、うちには来れねえの?)
 山本の感情はあまり顔に出ない。最も表情筋がリラックスした状態が、外からはふにゃーとした笑
顔に見えるらしいだけだ。
 ビアンキはチャリチャリ、ベルを鳴らした。
「何の用よ、隼人。呼び出しておいて待たせるなんて。私はこれから筍を掘りに行くのよ。」
 集団食中毒予防のため、ビアンキを竹寿司から遠ざけようと、リボーンが方便を使ったらしい。
「スマン。すぐ済ます。」
 獄寺はビアンキと山本の間に立った。
「じゃ、こちら。」
 獄寺はガイドのように反らした掌で、ビアンキを示しながら言った。
「オレの姉のビアンキ。」
「うん。知ってるのな。」
 次に獄寺は反対の手で、山本を示す。
「で、こちら。野球バカの山本武。」 
「今さら紹介してただかなくても結構。忙しいのにふざけて時間をとらせないで。」
 ビアンキは籠から苺大福を取り出して、いきなりポーイと投げつけた。
「新作よ!召し上がれ!」
 山本がカバンを盾に大福を地面に払い落とした。
「じゃあ行くわよ。」
 ビアンキはギコギコ、自転車をこいで去って行った。
「地面溶けねえなあ?普通の大福か?」
 2人はしげしげと大福を見下ろした。
「誰か食ったらやばいのなー。」
 山本が大福をギュウッと踏みつぶした途端、シュワシュワ白煙と異臭が噴きあがる。 
「わっ。」
「げっ。」
 山本は獄寺の手を掴むと走り出した。

 しばらして立ち止まる。
「なあ、獄寺。さっきのなんだったの?」
「ちょ、ちょっと待て。」
 獄寺は肩で息をした。喫煙がたたっている。一方、山本は息も切らしていない。
「オレが転校してきてはじめて会った日、お前、オレに姉か妹がいないか訊いただろ。」
「ああ。んなことも。」
「姉貴がいるって言ったら、紹介してって言ったの覚えてるか?」
「・・・・・覚えてる。」
 いや、だけど。
 それは、綺麗な顔した転校生の性別が男だと知ってがっかりして、それなら似た顔の女がいたらい
いのにと思ったからであって。
 獄寺が人の悪い笑顔を浮かべて山本を見ていた。
「じゃ、これが誕生日プレゼント。」
 この性格の悪さも、ツナへの熱すぎる忠誠心も、姿の綺麗さも、性別も、全て含めて獄寺を好きにな
った今、似た顔でどんな美女が存在したとしても無意味だ。
「ええっ??」
 山本はここぞとばかりに表情筋を操作し、悲痛な声を上げた。
 獄寺は山本のカバンについたままの大福の粉と、邪険にされた子犬のような顔を見て、心を揺らし
た。体格のいい山本が自分よりも小さく見える瞬間、獄寺はどうも山本に甘くなってしまう。
「・・・・・・・・・冗談。まだ別にある。」
 昨夜、プレゼントを忘れていたことに気づいて咄嗟に考えついた案だ。用意があるはずもないのに、
ついと口から言葉が滑り出してしまった。
「ほんとなのな?」
 山本はふにゃーと笑顔を見せた。
 本当に子犬だったらしっぽが振り切れるほど、パタパタさせているだろう。

(・・・・・どうしよう。)
 焦。
(獄寺、絶対用意してないのなー。)
 にま。


200/04/22

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