地下アジトの自動販売機の謎に迫る 



 女の子たちが家事をボイコットして、男共はお茶を飲むのにも一苦労することになった。ハルと京子
ちゃんはご丁寧なことに、電気ポットまでどこかに隠してしまっている。

 とりあえず食事はレトルトやカップ麺で済ましたが、女の子たちだけがこれまで通り調理したものを
美味しそうに食べているのを見れば、怒りを通り越してもの悲しい。何故かリボーンだけが、ちゃっか
り女の子組に混じっているのも腑に落ちない。


「あー、のどかわいた。」
 獄寺はトレーニングルーム外の廊下の、自動販売機の前で悩んでいた。

 アジトにはキッチン兼食堂とここにのみ、ドリンクの自動販売機があるのだが、誰が管理しているの
か不明なために、皆から怪しまれていた。ジャンニーニら大人組らに訊いても、首を傾げるばかり。
 10年後のツナの直々の指示で設置されたらしいことだけは判明している。

 商品は「猫のおなかのように軟らかな水」「猫耳生えちゃうかもしれないぐらい元気になる機能性飲
料」「猫の肉球のようにふくよかな味わいのミルクティー」「ブラック・キャット・コーヒー」「白猫印の美味
しい牛乳」「ネコになるっ茶」といった、怪しい猫づくしラインナップ。
 ペットボトルも缶もすべて80円で、子ども組には嬉しい価格設定なので、誰かが試しに買ってみよう
としたこともあったが、硬貨はチャリンと返却口に落ちてきてしまった。その後も、10年後山本だけは何
度か挑戦していたが、今では存在自体を忘れ去られている。

「どれにしようかな。」
 実は、獄寺は以前、瓜のためにこの自動販売機の「猫の水」を買ったことがあった。
 どうやらコインとともに、嵐の属性の炎を注入しなければ購入できない、こった仕組みになっている。
 残念ながら、瓜はその水の匂いを嗅ぐなり皿をひっくり返してしまったけれど。
 
(10年後の10代目が、オレのために設置してくれたのかもしれない。オレが瓜とうまくやっていけるよ
うに、オレに猫の気持ちになれというお心づかいで。)

 硬貨を入れて、指がボタンの上を迷ううちに、獄寺の指が『故障・使用禁止』と墨書された半紙に触
れ、カサカサと鳴った。達筆なのか下手なのかもわからない流暢なこの文字は、多分大きな丸い白い装
置の中で眠る10年後の雲雀の筆だろう。

「僕がいない時は、自動販売機のドリンクを飲むな。」
 夜襲の夜、酔っ払った瓜の首をつまんで獄寺に返した際、雲雀は獄寺の耳元に囁いて行った。

(何でダメなんだ?10代目がオレのために折角用意して下さったのに。)

 獄寺は25歳の雲雀の顔を思い出して少し寂しくなる。再び彼に会うためには10年後を待つしかな
い。
 15の雲雀も綺麗だけれど、25の雲雀の切れ長の目には、背筋にゾクゾクと寒気がくるような色気が
あった。圧倒的な強さと相まって獄寺に憧憬の想いだけを残して、いなくなってしまったけれど。

「よし、これにしよう。」
 獄寺は和風大人雲雀を思い出したことをきっかけに、日本茶を買った。
 そして、雲雀財団側のアジトに通じる地下道に向かう。獄寺だけが自動販売機を使えることがばれ
たら、皆に代わりに買って買ってとうるさく言われるだろうし、オレ専用、の気分が台無しになってしま
うので、こっそり一人で飲むつもりだった。

(そう言えば雲雀、どこにいるんだろう。ディーノと修行ってことは、案外、近くにいるのかな?)

 財団のアジトまでもぐりこんで、獄寺は狭い通路の床に腰を下ろした。もともと静かだったが、主であ
る10年後の雲雀の姿が消えてから、ずっと人気がない。

「ここまで来たらいいか。」
 獄寺はペットボトルのふたをひねった。
「うまい。なんだ普通の茶じゃねーか。」

 茶を飲み干すと眠くなってしまって、獄寺はコックリコックリ、その場で居眠りをしてしまった。目が覚
めて慌てたが、時計を見れば30分ほどしか経っていないことに安心する。

 さて帰るかと立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
 あれ。あれ?朝じゃないのに元気だぞ。
 それになんだか身体が熱い。
(部屋戻ったら山本がいるし・・・ここんとこ忙しくて久々だし、誰もいないからここでしてっちまえ。)




「獄寺隼人。君、僕のテリトリーで何してるの?」
 背後から雲雀の声がして獄寺の背が震えた。

「ひっ、雲雀っ!」

「何、してるの?」

 たった今思い浮かべていたのは25の雲雀だったから、幻覚だとでも思いたいところだが、獄寺の髪
をギリッと掴みあげる痛みは現実だ。


 普段するように擦ってみても熱が抜けなくて、その上奥深いところで沸き起こる痒いような痛いような
うずきが徐々に激しくなって、獄寺はその場に縫いとめられたように動けないでいた。


 雲雀は獄寺の髪を掴んだまま、あられもない姿の獄寺を眺め下ろしている。

「何、してるの?」
 雲雀は3度繰り返した。
 意地悪で言っているのかと思ったが、本当に疑問で訊いているらしいことに獄寺は気づく。

「テメエだってオナニーぐらいするだろっ。」
 恥ずかしさを掻き消したくて獄寺は強い口調で言い捨てる。 

「君はする時、後いじるの?」
 雲雀は獄寺自身の体内に隠れている指先の、根元辺りを見て言った。

 獄寺はぎょっとして顔で指を引き抜き、慌てて膝を閉じる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・い、いつもは、んなことするわけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 必死で応えようとしている獄寺の言葉を、雲雀は聞いているのかいないのか、床に落ちていた空の
ペットボトルを拾い上げ、ラベルを読み上げた。


「ネコになるっ茶」
 注意 
   飲んだらネコになります。
   誰かに挿れてもらって可愛がってもらうまで、効果は消えません。
   飲んだらオレの部屋においで、ハヤト。 BY ボス

 企画製造 ボンゴレ・ドリンク・コーポレーション



 ポィ。雲雀はペットボトルを投げ捨ててから獄寺の顔を見た。今にも泣きそうな表情をしている。
紅く染まった目元。切れてしまいそうな ほどに噛みしめられた唇。震える白い頬。
 強気な目の光はこんな時も変わらないが、誰かの助けを借りなければ動けない状態であることを、
獄寺の意識は気づいていなくても、獄寺の体はわかっているのだろう。雲雀を誘うように肌が香る。
煙草に火薬とスパイスとザラメを混ぜあわせた、シナモンシュガーのような。

(そうか、僕はこんないやらしい姿を見たくて、いつもこの子をいじめてたんだ。)

「手伝ってあげる。」
 雲雀は獄寺の前に膝をついた。

「え?」
 獄寺はあっけにとられた顔のまま、雲雀の抱擁を受け入れた。
 茶の効果で敏感になった体が、それだけの刺激で感じて震える。

「誰か好きな人にことを考えていていいから、君のはじめては僕にくれる?」


 優しくて穏やかだったのはその最初の言葉だけで、それからは終始雲雀らしい乱暴で傍若無人な
動きだった。

 体に力が入らずにろくに抵抗できない獄寺が制止の声を上げようとも、雲雀は獄寺の背に圧し掛か
って腹這いに押さえつけて、脚の間の奥まったところに容赦なく指を突き入れた。

「んっやめっ」
 獄寺は両手で床を押しながら、踏んづけられた猫のような呻きをあげた。
「オスイヌに咬まれたと思って我慢しなよ、メスネコ。」

 獄寺が自身で慰めていたせいで抵抗が少なく、雲雀はすぐに指を2本に増やした。そして差し入れ
た2本の指を曲げ伸ばししてはかきまぜた。

「う、そっ」

「君がおとなしくしてれば、優しく犯ってあげられる。」

 獄寺は「や」の音に、漢字を当ててみて脅えた。

「ムリっ!んなのっ」

「さっきまで、誰かにされること考えてしてたのに?」

 その雲雀の言葉で、獄寺の動きが止む。
 確かに獄寺は25歳の雲雀の腕に抱きしめられて、息がかかるほど近くでその顔を見上げることを想
像していた。
 あの雲雀が自分だけに話しかけ、自分だけを見つめていてくれたらいいと。
 この雲雀は、あの雲雀と同一人物なのだから、勝手に変な想像に使っていた自分に嫌がる資格は
無いのかもしれないけれど、それでもこの雲雀ではないという気持ちが強い。
 心情的には、美形の兄弟のミステリアスで大人な兄に憧れていたのに、乱暴者で子供な弟に迫ら
られている状況に近い。


(図星か。沢田綱吉のことでも考えていたんだろう。いつだって群れてるし。10年後、こんな茶を作っ
て遊んでるくらいだし。)

 腹立たしい思いから、雲雀はジャム瓶に指を入れて掬い取るように、ことさら激しく抉った。

「うっ。ぐっ。」

 痛みを訴える声に、甘みのある泣き声が混じってくる。
 茶のせいでうずく体は刺激を喜んでいて、腰が小さく動きだしている。
 背にかけられていた体重をはずされても、自分の指では得られなかった人から与えられる数倍も
強い感覚から、獄寺は逃げられなくなっていた。

 雲雀は抵抗の少ないうちにと、左手だけで獄寺の腰下で止まっていたデニムを膝まで下着ごと引き
下ろした。全部剥ぎとってしまいたいけれど、どうせ靴に引っかかるだろう。シャツは背にまくり上げ
る。
 獄寺の背から腰、そして脚への白く細く滑らかなラインを一望して、雲雀は思わず唇を舐めた。

「お尻小さいくて可愛いね。」

 銀の髪からのぞくうなじに向かって囁いてから、腰を上げさせるために腿の下に手を挟み入れると角
度が変わったせいなのか、獄寺の体がびくんと揺れた。

「あっ」

 鼻にぬける声が聞こえた。
 
「ここがイイ?」

 返答はない。
 雲雀がそこを集中的にいじり続けると、獄寺は甘い声をあげ震えながら達した。

「やっぱり可愛いネコだね。後だけでいけるんだ。」

 抵抗する気力も失っている獄寺から指を抜き取って、雲雀はジッパーを下ろして屹立する自分のも
のを取り出した。

 ペットボトルの注意書き通り、指で慰めるだけでは茶の効果は抜けないらしい。獄寺は悔し涙を流し
ながら、ひくひく小刻みに揺れる体は更なる刺激を待ち受けている。

 雲雀は獄寺の前にまわした手で、腹を濡らす温い液体をかきあつめ自分のものに塗りつけた。

「お前なんか嫌いだ。」
 獄寺の呟きに雲雀が応酬する。
「僕がいつ君に好きになって欲しいって、頼んだ?」

(嫌われた方が、余計気になって執着するんだよ。)

 腰だけ高く上げさせる体勢で、雲雀は獄寺の窄まりに己をあてがい、刺し貫いていった。
 入口は慣らしたものの細く狭い器官の摩擦が強くて、広がったかさの部分まで入れるのに苦労した
が、その後はただ勢いで奥まで押し込んだ。

「全部挿ったね。君の中、凄くイイよ。」
 雲雀は深く息を吐く。

「嫌いだ。嫌いだ。」
 うわ言のように言い続ける獄寺を無視して、雲雀は獄寺の骨盤を捉えると、腰を使いはじめた。

「き、嫌いっ。」
 打ちつけられる衝撃で開く口。
「そう。」
「きら、い、だっ。」
 洩れる空気すべてに、嫌いという呪いをこめて。






「きっ。あっ。・・ん・・・・・・・・ひばり。」 


 防犯用カメラのモニター映像の中で揺れ動く2つの影。


「ど、どうしましょう、拙者、止めに行くべきでしょうか。」
「隼人兄、色っぽい顔してるぅ。」
「フゥ太殿おっ。」

 



2009/04/07 


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