雲雀恭弥君お誕生日おめでとう!
並盛中学では、5月5日は休校日とされていない。たとえ土日にあたっていたとしても登校日になる。
ちゃんと並中の公式年間予定表にも『雲雀恭弥誕生日』と記載されている。
「委員長、おめでとうございます!」
「雲雀さん、誕生日おめでとうございます。」
「雲雀君、おめでとう。」
朝からずっと雲雀は祝福され通しだ。雲雀はにこりともしないが、誰も咬み殺していないところを見ると、
機嫌は悪くないらしい。まだ、午前の授業が終わったところであるが。
「ちぇっ。せっかくの休みが。」
そう感じているのは獄寺一人だけで、生徒も教師も不満はないらしく、普通の顔でいつもどおり、日常的な
学校生活を贈っている。贈っているで正しいのだ。この場合。
並中において、雲雀はただ恐れられるばかりの存在ではなく、頼りにされ、崇められている。愛されている
と言ってもいい。
獄寺は手に持っていた小さな紙袋を鞄にしまった。 朝からタイミングを計っていたが雲雀がなかなか一人
にならず、渡せないでいるうちに気分が挫けた。
(雲雀にとって一番のプレゼントじゃねえか。あいつホント学校好きだもんな。あーあ。こんなの、渡せねえや。)
何をやればいいか散々考えた末に選んだけれど、全校的バースデー・プレゼントの前には霞んでしまう。
「フケよ。」
獄寺にとって早退は日常茶飯事。これもまた普通だ。
「君、何してんの?」
用務員の通用口から校外へ脱出しようとしたところで、獄寺は雲雀に捕まった。あっさり腹に一撃くらわされ
た上、脚払いをかけられて、地面にスライディング。咄嗟に両手をついたので、掌がすりむける。
「就学時間内の退出は認めないよ。」
雲雀は片足で、地面にうつぶせる獄寺の右手を踏んだ。
「イテテッ。」
ぎりぎりとすりつけられて、皮膚の破れ目に小石がもぐりこんでいく。
「そんなに強く踏んでないでしょ。」
雲雀は足を上げないまま、しゃがんで獄寺の髪をつかんで顔を上げさせた。
「僕に何も言わないうちに帰るつもり?今日が僕の誕生日だって、知らなかったとは言わせないよ。」
朝からずっと獄寺が何か言いたそうにしているのはわかっていた。
「ハッピー・バースデー。」
唾を吐く勢いで言う。
「心がこもってない。」
「ハッピー・バースデー、ヒバリ!」
やけくそで叫ぶ。
「誠意がないね。」
「お誕生日おめでとう、ございます。」
「愛が足りない。」
「誕生日おめでとう、恭弥。」
それで雲雀は獄寺を解放した。
獄寺は握った砂利を雲雀の顔に向かって投げた。雲雀は少し上体を傾けたただけでそれを避ける。
獄寺は鞄をがあっと開けて紙袋を取り出し地面に投げ捨て、靴底で踏みにじってから校外へ逃げて行った。
雲雀は紙袋を拾いあげた。
袋は破れていたが中身は無傷だった。
プレゼントはシルバーのチェーン。獄寺がリングを提げているのと同じものだ。明日からこっそりペアルック
ができる。
「ツンデレって大変だな。」
―――――――――――――――――――――――――
ツンデレ同士は大変だ。