記号論的問題

                       

 獄寺に姉譲りのポイズンクッキングの能力が発現したのは、つい最近のことだ。正確には二月弱。
獄寺自身を除けば、雲雀のほかはまだ誰も知らない。
 獄寺はそれを不名誉なことだと認識し、雲雀以外には一生涯秘匿する方針でいる。
 雲雀は雲雀で、公言を差し控えるべきあるデリケートな事柄が獄寺の能力の開花のきっかけになっ
たのではと考えていた。



「ねえ、君のお姉さんて、小さい頃はどんなだったの?」
 雲雀の立てた仮説が確かなら、雲雀にも責任がある。

「ん?姉貴はむかしから今と同じであんな。なんで?」
 獄寺は雲雀への誕生日プレゼントに贈った指人形を、どうやってトンファーの先につけさせようか
考えている。

「今と同じでどうなの?」
 雲雀はハリネズミとキリンの人形を指につけ、ふにふにと動かしてみた。

「オンナノコを飛び越してガキの頃からオンナ。三つん時にはステディがいて、それ以来オトコを絶
やしたことがない。リボーンさんのオンナになってから、ますますオンナ度上昇中。姉貴が気になん
の?」
 獄寺はコンニチハする人形に笑みをもらした。風紀委員の奴等に見せてやりたい。

「生物学的には、初めから女性だったんだよね?」
(わからないな。ハリネズミはともかく何でキリン?それより何で指人形?)

「当たり前だろ。」
(鉤が出てきた時にハリネズミ、延ばした時にキリンの人形がトンファーの先についていたら笑える。)

「ねえ、君がくれたバレンタインのチョコはおいしかったよ。」
 箱の中で溶けていて大変だったけれど。

「なんだよ、改まって。」
 獄寺は雲雀の顔を見た。

「ホワイトデーの時もクッキーをくれたよね。あれもおいしかった。」
 硬度が高すぎだったから、湿気させてから食べたけれど。

「だって、お前が逆チョコの3倍返しをしろってうるせえから。」
 獄寺は下を向いて顔を隠した。ホワイトデーの夜、はじめて雲雀を部屋に泊めた。覚えやすい記念
日を作ってしまった。
 
「あれからだよね、君の作るものが劇毒薬化するようになったのは。」
 雲雀は既に確信を得ていた。

「ヒデエな、劇毒薬化って。」
 ポイズン化のが、まだましだ。

「君が僕のオンナになってから。」
「ぶっ。」



 今のところ、獄寺のポイズンクッキングはまだ、皿にまではその能力が及ばない。例えば、海苔巻き

の海苔はポイズン化するが、ソフトクリームのコーンは無事だ。桜餅の桜の葉は、去年は大丈夫だった
のに今年はダメ。獄寺が何を皿と認識しているかが基準になっている。 

「ひばりー、誕生日にケーキか柏餅作ってやる。どっちにする?」
 姉の影響か、獄寺も作って贈ることが愛情表現だと考えているらしい。食べられるところがあったら食
べてくれと言って渡されれば、獄寺がいじらしくて、せめて一口、食べておきたいと思う雲雀だった。

「柏餅。」
 柏餅なら、努力すれば葉を食べられないこともない。それも今年限りだろうけれども。

 

 

2010/05/05

 委員長、お誕生日おめでとう!

お題は「柏餅なら」でした。

 

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